波乱要素は原発再稼働と原油急落
2016年01月26日
今年4月から始まる電力自由化を前に、商社、IT企業、コンビニ、生協など多様な「小売り電力事業者」(新電力)が、お得な料金プランやサービスを競っている。大手電力も迎え撃つ構えで、これまで電気を一方的に買うだけだった消費者は、その中から自由に選ぶことができる。3.11大震災という大きな犠牲を払って、電力業界の独占の一角に風穴があいた。
今は新電力と大手電力の価格競争はほぼ拮抗(きっこう)している。しかし、原発が次々再稼働すると、今でも圧倒的な大手電力の供給力はさらに大きくなり、コスト面でも有利になる。卸売市場などから電気を調達する新電力は不利になり、結局、昔のように大手電力だけが幅を利かす「元の木阿弥」になりかねない。
経産省は昨年末、新電力が119社に上ると発表した。そのビジネスモデルは様々で、楽天はLPガス業者と提携して電力を販売し、旅行会社のHISはハウステンボスの子会社が供給する電力を販売する。東芝は同社の太陽光発電システムを購入したお客から電力を買い取って販売するなど。
経済界は久々に湧き立っている。自由化を機に、これまで全く閉ざされていた電力ビジネスにまずもって参加し、管理技術や販売ノウハウを獲得する狙いがある。さらにポイント制などの新サービスと組み合わせて、お客を自社のビジネスに取り込むことを考えている。
グラフは、政府の「長期エネルギー需給見通し」の一次エネルギー供給の割合を示している。3.11大震災後ほとんどゼロだった原子力の比率を2030年度に10~11%まで高める計画になっている。
これに合わせて、九州電力の川内原発がすでに営業運転に入り、関西電力の高浜3,4号機と四国電力の伊方3号機には原子力規制委員会の許可が出た。さらに東京電力の柏崎刈羽6,7号機や中部電力の浜岡3,4号機など計20基が目白押しで審査を待っている。
政府の試算による発電コスト(2014年度)は、天然ガス火力の約14円、石炭火力約12円程度、太陽光発電の約30円に対し、原子力は約10円と低い。このため電力会社や政府の思惑通りに再稼働が進んだ場合、大手電力の料金はかなり下がる可能性がある。
こうした原発再稼働による有利不利の発生を防ぐため、経産省は自由化後に原発で作られた電気の一定割合を、新電力が卸売市場で調達できるようにする施策を検討している。そのサジ加減一つで新電力は生きも死にもする。
また原油などエネルギー価格の急落は大量購入する大手電力に有利に働くので、電力自由化を一時のブームで終わらせないために公正な仕組みが不可欠になる。
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