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英国で民主主義政治の危機か?

メディアの逆風、党内分裂で、野党の労働党がなし崩し的存在に

小林恭子 在英ジャーナリスト

 二大政党制が長く続いてきた英国で、野党の労働党が分裂状態に陥り、与党の保守党以外に政権を担える政党がない状態となっている。日本で与党・自民党が国会で圧倒的な位置を占める状況を彷彿(ほうふつ)とさせるこの頃だ。

 2010年まで13年間の長期政権を担当した労働党が、なぜなし崩し状態になっているのか、その背景や希望はあるかを見てみたい(以下、敬称略)。

BBC報道は偏向している?

BBCの報道に労働党が苦情の手紙を出した(BBCニュースのサイトより)拡大BBCの報道に労働党が苦情の手紙を出した(BBCニュースのサイトより)

 労働党の凋落(ちょうらく)を加速させたのは、保守系が強いメディアだ。全国紙11紙の中で、大部分が保守党支持。不偏不党の報道が義務付けられているはずの放送ニュースも、反労働党になびきがちだ。

 「エリザベス女王の前でひざまずくのですか、ひざまずかないのですか。答えてください」

 昨年9月15日、英BBC(英国放送協会)の政治部長ローラ・クエンスバーグが同じ質問を繰り返した。

 1対1のテレビ・インタビューの相手は労働党の党首に就任したばかりのジェレミー・コービンだ。

 最大野党の党首として、コービンは女王の諮問機関枢密院のメンバーになるはずだった。枢密院の就任儀式の中で、任命されたメンバーは女王の前にひざまずき、その手にキスをすることになっているという。

 左派系・共和主義者のコービンが女王の前でひざまずけば、その信念を崩したことになる。コービンはクエンスバーグの質問に直接には答えなかった。

 「ひざまずく必要があるとは知りませんでした。まあ、その時になれば答えがわかるでしょう。そういうことで、いいですか?」。温和な声でそう答えた。

 しかし、クエンスバーグは収まらない。言葉を変えながらも、だんだんヒステリックに声をはりあげながら、同じ質問を繰り返した。

 丁々発止の政治家インタビューは英国のテレビ・ニュースではおなじみだが、感情が入って歪(ゆが)むクエンスバーグの口元と、対照的に落ち着いた様子のコービンを見ているうちに、筆者には「BBCの報道は偏っているのではないか」という疑念が湧いた。本来であれば不偏不党に徹するはずが「反コービン」というスタンスになっているのではないか、と。

 「メディア全体が右寄りになっている」—筆者は英国のメディア関係者からしばしばこんな論評を聞くようになった。これにBBCまでもが入っているとしたら、労働党にとって、相当の逆風が吹いていると言えるだろう。

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筆者

小林恭子

小林恭子(こばやし・ぎんこ) 在英ジャーナリスト

秋田県生まれ。1981年、成城大学文芸学部芸術学科卒業(映画専攻)。外資系金融機関勤務後、「デイリー・ヨミウリ」(現「ジャパン・ニューズ」)記者・編集者を経て、2002年に渡英。英国や欧州のメディア事情や政治、経済、社会現象を複数の媒体に寄稿。「新聞研究」(日本新聞協会)、「Galac」(放送批評懇談会)、「メディア展望』(新聞通信調査会)などにメディア評を連載。著書に『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス(新書)』(共著、洋泉社)、『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)。

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