日本が今採るべき政策は、日銀の量的金融緩和に加え、国債を発行して減税を行うことだ
2016年02月16日
世界中の株式市場の年初からの下落を受けて、人々の注目はアメリカと中国の動向に集まっている。
私は、前稿「アベノミクスの限界?それとも世界経済の変調か」(1月25日)で、「年初来の株価の大幅な下落は、アメリカの12月の利上げが引き金であるが、これに対する中国の不適切な政策対応が真因である」と書いた。また、「アメリカの利上げが妥当であったか否かは時が経たないと判らない」とも書いた。
https://webronza.asahi.com/business/articles/2016011800002.html
だが、アメリカについては、株式市場に加えてその債券市場の動向を観察すると、昨年12月の米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げが歴史に残る失敗であった可能性を否定できない。
第一に、アメリカの「予想インフレ率」が低下を続けている。
例えば、今後10年の予想インフレ率、つまり人々が抱くこれから先10年のインフレ率の期待値は、通常、10年固定金利債券と10年インフレ連動債券の利回り較差から推定する。
この予想インフレ率は、昨年半ばには約2%であったものが、FRBによる利上げの直前の12月半ばでは1.6%、現在(2月2日)では1.4%である。FRBは予想インフレ率が低下を続ける中で、利上げ(金融引き締め)を強行したことになる。本当に利上げが必要だったのか? 大いに疑問が残る。
第二に、アメリカの国債が大きく買われている。
昨年末に約1%の利回りであった2年物国債の現在(2月2日)の利回りは0.75%、同じく昨年末に2.25%であった10年物国債の利回りは1.87%である。もちろん、リスク資産である株が売られているので国債が買われているという側面もあるだろうが、10年債の利回り低下が2年債の利回り低下より大きい、つまり「イールド・カーブ」がフラット化しているということは、市場参加者が今後の景気減速を視野に入れているという証である。必ずしも、リスクの高い株を売ってリスクの低い債券を買う「リスク・オフ」では説明できないのだ。
第三に、国債と社債の金利差が拡大している。
代表的な指標であるバンク・オブ・アメリカ・メリル・リンチ社が発表している国債と社債(BBB格)の平均金利差(スプレッド)を見ると、昨年末の2.4%から現在(2月3日)の2.87%へと、わずかのあいだにおよそ0.5%も上昇している。これは平均的なアメリカ企業の資金調達環境が足元で大きく悪化していることを示している。
昨年末までミネアポリス連銀の総裁を務め、FRBの中でほとんど唯一人、利上げに反対し続けてきたナラヤナ・コチャラコタ氏(現在はロチェスター大学教授)は、「FRBは過ちを認めて、今すぐにUターンするしかない」と主張する。
「最大の懸念材料は予想インフレ率の低下だ。昨年来の予想インフレ率の低下には、二通りの解釈が可能だ。①石油をはじめとする資源価格の大幅な低下が予想インフレ率を低下させているが、これは一時的なものだ、という解釈と、②FRBはそもそもインフレ目標として定めた2%のターゲットを遵守するつもりがないと人々が考えている、という解釈である」
「私以外の多くのFRBの人々が①の解釈を採って、昨年12月の利上げを正当化した。だが、これはおかしな話だ。仮に①が正しいとしても、それを根拠として「利上げ」を行う必然性はない。予想インフレ率の低下が一時的なものなら、それが2%まで上昇するのを待てばいいだけだ。一方、②が正しいとすると事態は深刻である。『FRBの信認に傷がついている』ということだからだ。その場合、FRBはアグレッシブな金融緩和で2%インフレ目標を達成して信認を回復するしかない」
("It's Time to Make a Hard U-turn" by Narayana Kocherlakota, January 22, 2016)
https://sites.google.com/site/kocherlakota009/home/policy/thoughts-on-policy/1-21-16
コチャラコタ教授の懸念が杞憂に終わることを祈るばかりだが、昨年12月の利上げがFRBの金融政策の失敗であったなら、その影響は極めて大きい。
一方、中国の政策をどう考えれば良いのだろうか?
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