日経や日本の他の新聞メディアのグローバル化は進むか
2016年03月04日
日本経済新聞社が、英フィナンシャル・タイムズ(FT)を発行するFTグループを買収してから、3カ月余りとなった。買収金額は8億4400万ポンド(約1600億円)に上り、買収処理が完了したのは昨年11月末だ。現在までに日経幹部がFTのロンドン本社に常駐し、FTと日経の間で記者・編集者レベルでの人事交流が始まっている。「日経プラスFT」の現時点での意味合いやその影響について考えてみたい。
昨年夏、全く予想外だった日経によるFTグループの買収合意が発表されると、「買収金額は大きすぎたのではないか」という声が日本内外で出た。
典型的な見方がトムソン・ロイターのコラムニスト、ジェニファー・サバーによる論考(2015年7月23日)だ。「日経は相当大きな名声を手に入れるのは確かだ。しかし冷徹な経済合理性だけを考えるなら、調整後営業利益の35倍、そして実質価値のおよそ3倍の金額を支払ったことになる」と指摘した。調整後営業利益に対する買収額の倍率は、米アマゾンの所有者ジェフ・ベゾス氏が2013年にワシントン・ポスト紙買収で所有者グラハム一族に支払った金額の2倍前後に相当する。
週刊ダイヤモンドも、日経の年間売上に相当する金額での買収を「大きな賭け」と呼んだ(同年8月4日付)。
果たして「高すぎる買い物」になるのだろうか。
一つの判断材料は、日経がFTグループ買収で狙った2つの大きなキーワード、「グローバル化」と「デジタル化」がどれぐらい進むかであろう。
約75万の購読者の中で3分の2(55万)が電子版のみの購読者となるFTは、デジタル化で成功した新聞だ。「デジタル・ファースト」(電子版制作を主とし、紙版は従とする)を掲げ、編集室のレイアウトや人員配置をこれに沿うように変更してきた。現在はサイトにやってくるオーディエンス(利用者)がどのようにソーシャルメディアを使うかの研究を含めた、「オーディエンス・ファースト」に力を入れている。
FTの買収がどのようなシナジー効果を生み出すかについて、日経電子版担当役員渡辺洋之氏は「やっと買収が完了したばかりなので、これから」と答えている(ニュースサイト「DIGIDAY」2月13日付)。「人材の交流を深めて、課金を含めた新しい考え方を話し合って」いくという。FTのCEOや編集局長も参加する共同イベントの実施を計画中だ。
英メディアではジャーナリストによるツイッターでの情報発信・受信が一般化している。日経はデジタル・ファースト、オーディエンス・ファースト、記者のソーシャルメディア使いの面で、現在、FTから学んでいる最中のようだ。
グローバル化の進展はどうか。
日経が目指す「グローバル化」の意味が世界にリーチを広げることと解釈すれば、世界に広がる読者を持つFTを通して、日経が世界とつながってゆく様子が目に見えるようになってきた。
例えばFTのタブレット版アプリを開けてみる。記事の読み込みが画面中央で開始されると同時に、画面下には「A Nikkei Company」と出る。アプリを開くたびに、FTが日経グループの一員であることが示される。日経はFTとともに、読者の視界に入ってゆく。
紙面でのプレゼンスはどうか。
1月には日本特集の冊子がFT本紙に挟み込まれたほか、日経とFTの共同取材による特集記事が両紙の紙面を飾り、毎日曜にはFTの論説記事が日経に掲載されるようになった。また、安倍首相へのインタビュ-記事が1面にトップ扱いで出た。これまでアジアといえば中国に目を向けるのが普通になっていた欧米メディア、特に国際的に一目置かれている新聞FTが日本についてこれだけ大きく紙面を割いていること自体が重要だろう。
一連の日本関連記事は、グローバルなアピール力を切望していた日経にとって大きなプラスと言えよう。
日本政府にとっても、FTを通して世界に安倍首相のインタビュー記事が流れるのはプラス以外の何物でもない。ただし、ここに懸念も生じる。
それは、ジャーナリズムについての懸念だ。
日本企業あるいは日本政府との関係が以前よりも強化された場合に、FTが日本の様々な事象についての批判のペン先をやや緩めることになりはしないか、という点だ。
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