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シャープ、鴻海逆転劇の内幕

シャープの〝国体護持〟が鴻海勝利の背景にあったのではないか

大鹿靖明 朝日新聞経済部記者

大きく変貌するか、シャープのビジネス

2月5日にシャープ本社で高橋興三社長(左)と握手する鴻海精密工業の郭台銘会長。この時は郭会長は29日までの契約実現に自信を示していた=鴻海提供  

拡大2月5日にシャープ本社で高橋興三社長(左)と握手する鴻海精密工業の郭台銘会長。この時は郭会長は29日までの契約実現に自信を示していた=鴻海提供

 当初、産業革新機構が有力視されていた電機大手シャープの支援者が一転して、台湾の電子機器受託製造大手の鴻海(ホンハイ)精密工業に決着する見通しとなった。

 革新機構を後押しし、シャープを国内電機産業の再編の起爆剤としたかった経済産業省にとっては大きな誤算。「官」主導の再編の失敗、資金力のあるグローバルな「外資」の勝利と評されるが、真相は、鴻海傘下に入ることで、損失を出したくなかった銀行と、各部門が切り売りされることを阻止したいシャープ幹部層の思惑が一致した〝延命策〟という側面もある。

 とはいえ、鴻海は、従来の電子機器だけでなく、今後は次世代の自動車開発にも乗り出すと観測されており、グローバル企業とリンクすることでシャープのビジネスも大きく変貌するかもしれない。

経産省に激震

 シャープが2月4日の取締役会で、革新機構、鴻海の双方を比較検討した結果、鴻海を軸に検討すると表明すると、革新機構を推してきた経産省に激震が走った。

 シャープの高橋興三社長は同日の記者会見で「人的なリソースをたくさん割いて、分析に人をかけているのは鴻海の方」と、断定的な口調は避けながらも鴻海優位をにじませた。

 シャープに雇われているアドバイザーが後日明かしたところによれば、「取締役会では『鴻海と優先的に交渉する方向で検討する』というような言い回しで〝逃げ〟は打っているが、この時点で鴻海に決していた」。

 怒り心頭だったのは、経産省の菅原郁郎事務次官だった。同省OBの半田力氏をシャープの取締役東京支社長に送り込んでおり、緊密に連絡を取っていたはずだった。だからこそ余計にはしごを外されて、メンツをつぶされた思いだっただろう。

 同省の複数の関係者によると、菅原氏は、鴻海案を担いだシャープのメインバンクの一つ、みずほコーポレート銀行に八つ当たりし、「当省のプロジェクトからみずほを外せ」などと激怒したという。

 さすがに「江戸の敵を長崎で討つようなマネはよくない。みずほに『経産省に意地悪された』とリークされたら目も当てられない」と、同省の幹部たちがなだめて事なきに至ったが、省内には敗北感が広がった。「しばらくは沈痛な雰囲気だった」と同省幹部は打ち明ける。

国内電機メーカー再編に向けた動きも

 経産省内には、革新機構がシャープに出資した上で液晶部門を分離させてジャパンディスプレイと統合させるなど、シャープの経営危機に乗じてプレーヤーの数が多い国内電機メーカーの業界再編を企図する動きがあった(詳細は1月28日付本欄「シャープ〝救済〟不作為の罪が事態を深刻化」参照)。

https://webronza.asahi.com/business/articles/2016012600006.html

 2012~13年の前回のシャープの経営危機時には、同省内には〝弱者救済〟と受け取られるのを恐れ、個別企業のシャープ支援には及び腰な勢力(フレームワーク派)が少なからず存在したが、今回は菅原次官をはじめ、荒井勝喜情報政策課長、三浦章豪情報通信機器課長ら支援に積極的な官僚たち(ターゲティング派)が要職を占めた。

 前回危機時にはシャープ支援に冷淡だった革新機構も、日産自動車出身の志賀俊之氏が会長兼CEOに就任するなど経営陣の顔ぶれが変わると、掌を返して前向きになった。同機構の勝又幹英社長は朝日新聞のインタビューで「再編の呼び水として私どものような存在があっていい」「長年競争してきた相手といきなり一緒になるのは当事者同士では難しい」などと踏み込んで話していた。

銀行に「痛み分け」を強要しない鴻海の提案

 革新機構がシャープに提案したのは、出資金3000億円規模と最大3500億円の金融支援の合計6500億円規模。一方の鴻海の提案は4890億円の出資と銀行が保有する優先株の買い取り1000億円の合計6000億円。一見すると、どっこいどっこいだったが、その中身が大きく異なった。

 革新機構が提案する金融支援とは、みずほ、三菱東京UFJのメインバンク2行の債権放棄と両行が保有するシャープ優先株の減資を指し、銀行が数千億円規模で損をかぶる案だった。だが、鴻海は、そうした痛み分けを銀行に強要しない。シャープに役員を送り込んでいる両行(特にみずほ)からすると、みすみす損を覚悟する革新機構案には乗れないわけだ。

 もともと鴻海は、「革新機構が勝つに決まっている出来レースに登場した当て馬、ダミーに過ぎない」(欧州系投資銀行のM&A部門トップ)と見られていたが、1月末ごろから鴻海が次第に優位になっていく。それを経産省の担当幹部は「みずほが社外取締役を中心に役員たちに積極的に根回しを始めたから」と指摘するが、シャープに雇われたアドバイザーは「これだけ金額に差がついているのに『機構案にする』と言ったら、資本主義社会でルール違反でしょう」と明快に鴻海側に軍配を上げた。

 しかも革新機構は、液晶部門を切り離してジャパンディスプレイと統合することや、白物家電を分離して東芝と統合するなどシャープを切り刻む案をあたため、高橋社長らシャープ生え抜きの首脳陣は退陣させる方針でもいた。

 一方の鴻海は、事業の売却をせず、従業員の雇用を維持し、そして経営陣も留任させることを掲げていたから、シャープの経営陣にとっても鴻海案の方が飲みやすい。高橋氏は先の記者会見で「シャープという会社が部門ごとに分解されるのはマイナスになる」「革新機構の案は、液晶以外の分野が一体性をもって運営できるのか懸念があった」などと述べ、鴻海案への賛意をにじませていた。

 すなわちシャープの〝国体護持〟が鴻海勝利の背景にあったのではないか。銀行やシャープの生え抜き幹部層が傷つきたくなかったことが、鴻海が競り勝った要因に見える。

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筆者

大鹿靖明

大鹿靖明(おおしか・やすあき) 朝日新聞経済部記者

1965年、東京生まれ。早稲田大政治経済学部卒。88年、朝日新聞社入社。アエラ編集部などを経て現在、経済部記者。著書に第34回講談社ノンフィクション賞を受賞した『メルトダウン ドキュメント福島第一原発事故』を始め、『ヒルズ黙示録 検証・ライブドア』、『ヒルズ黙示録・最終章』、『堕ちた翼 ドキュメントJAL倒産』、『ジャーナリズムの現場から』がある。近著に『東芝の悲劇』。キング・クリムゾンに強い影響を受ける。

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