スノーデン事件と9.11テロの影
2016年03月22日
銃乱射事件の容疑者が所有していたiPhoneの暗号解除をFBI(米連邦捜査局)が要求し、アップルが拒否している問題は、ついに法廷に持ち込まれた。
死亡した容疑者夫婦は熱心なイスラム教徒だった。グーグルなど大手IT30社はアップルを支持するが、世論調査は逆にFBI支持が多数を占める。価値観が分裂する米国社会を象徴する出来事だ。
銃犯罪が多い米国でも、昨年12月にカリフォルニア州の福祉施設で起きた乱射事件ほど衝撃を与えたものは少ない。イスラム教に傾倒した容疑者が14人を殺害。FBIは背後関係を捜査するためiPhoneに残されたデータの暗号解除をアップルに要請した。
だが、アップルは拒否。ティム・クックCEOは2月、顧客に向けたメッセージで理由をこう説明した。
「我々は暗号技術によって顧客の個人情報を守っている。しかし、政府はiPhoneに『バックドア』(暗号を解除してデータを抜き取る裏口)のOS(基本ソフト)を作るよう求めている。これはとても危険なことだ。そんなOSを作れば、世界中の端末から情報を抜き取るマスターキーになってしまう。我々は民主主義への敬意と祖国愛を持って政府に異議を唱える」。
スマホはふつう暗号化されたパスワードでデータを守っている。仮にFBIが可能性のあるパスワードを大量に入力する「総当たり攻撃」をかければ、いつか解除することができる。
しかし、容疑者のiPhoneは、➀パスワードを間違えると次の入力までの時間を長くする入力遅延機能➁10回間違えると内部のデータを自動消去する機能、という2つの防御機能を備え、総当たり攻撃を不可能にしている。
そこでFBIは、この防御機能を解除するためのバックドア用OSを別途作るよう要求しているのだ。
FBIは「このOSはアップルが保有し、解除が必要なiPhoneが現れるたびに裁判所からアップルに解除要請する形にすれば、プライバシー保護に影響は出ないはずだ」と主張し、アップルを「テロ捜査に非協力的な会社」と攻撃している。
一方、アップルは、バックドア用OSを作れば、FBIはこの先何度も合法的に暗号解除の要請を繰り返し、テロ対策だけでなく、「国益」の名のもとにメディアや市民の思想調査、政敵のスキャンダル探しなどに際限なく広がることを懸念する。
2013年に起きたスノーデン事件が今回の伏線としてある。
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