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米国連銀のジレンマ

世界経済・金融資本市場の不均衡調整完了には、道半ばだ

齋藤進 三極経済研究所代表取締役

「想定外」の世界的な株価急落?

米議会上院の銀行委員会で証言する、米連邦準備制度理事会(FRB)のイエレン議長拡大米議会上院の銀行委員会で証言する、米連邦準備制度理事会(FRB)のイエレン議長

 米国の中央銀行である連邦準備制度(米国連銀)は、2015年12月の政策金利(民間銀行間の翌日物の貸出金利の誘導目標水準)の引き上げにあたり、2016年中には、毎回0・25%、計4回で1・00%ほどの追加引き上げを示唆していた。

 しかし、政策金利の引き上げ後の世界的な株価急落は、米国連銀にとっては、明らかに想定外であったようである。米国連銀の政策決定会合(連邦公開市場委員会)では、2015年1月、3月には政策金利の引き上げは見送り、2016中は計4回としていた政策金利の引き上げを2回と示唆するまでに、金融政策の引き締めテンポをトーンダウンした。

 その際の声明文には、「世界の経済、金融情勢の展開は、リスクを投げ掛け続ける global economic and financial developments continue to pose risks」との表現を付け加えた。

 要するに、米国連銀にとっては、世界の経済、金融情勢の見通しが不透明なので、政策金利の引き上げは見送ったと言っている訳である。

 本稿では、イエレン総裁下の米国連銀が置かれた状況などを、世界経済の現状と、その中長期的な見通しを含めて概観しよう。

米国連銀の任務とは

 米国連銀の任務は、米国経済のインフレ率を安定させ、雇用を最大限にする良好な経済環境を醸成することである。

 米国連銀は、世界の経済、金融情勢の安定まで、任務として明示的に受け入れている訳ではない。しかし、米国連銀の金融政策が、世界の経済、金融情勢を大きく左右するだけではなく、翻って米国自身の経済、金融情勢を振り回すことになっている現実を、認めざるを得なくなっている訳である。

 国際通貨としてのドルを差配する米国連銀は、依然として、世界の中央銀行として実質的に機能していると言って差し支えない。ユーロを差配する欧州中央銀行は、ユーロ圏内と周辺の国際貿易・国際資本取引には、絶大な影響力を及ぼす。しかし、ユーロ圏を除く世界の国際貿易・国際資本取引の大部分は、ドルを媒介として行われ、決済されているのが、世界の現実である。金本位制時代の基軸通貨であったイギリスのポンドや、日本の円、中国の人民元は、国際通貨としては、ドルの地位に及ばない。米国連銀の一挙手一投足が、世界の経済・金融資本市場に絶大な影響を及ぼすと言っても過言ではない。

量的緩和政策の終了で、すべてがアベコベに

 米国連銀は、2007年7月のサブプライム危機に端を発し、2008年9月のリーマンショックと続き、2009年3月に底値を付けた株価の急落局面で、2008年12月には政策金利を0・00%~0・25%と、ほぼゼロにした。それだけでは、金融資本市場の安定化には足りなかった。そこで、民間銀行などの保有する米国の国債、不動産担保証券などを直接に買い上げてドル資金を供給し、民間銀行などが資金繰りに行き詰まらないようにし、供給された資金が、貸し出し、証券投資などに振り向けられて、米国経済の景気回復を図った。その後、3次にわたって展開された量的緩和政策の発動であった。

 米国経済の景況は回復し、緩慢ながらも、雇用情勢も回復軌道に乗った。株価水準も、サブプライム危機勃発前の高値を大きく超える水準にまで回復、上昇した。

 しかし、米国連銀が、2014年1月から量的緩和政策の段階的な手じまいを始め、同年10月の量的緩和政策の完了へと歩みを始めると、それまでとはまったくアベコベの現象が、金融資本市場などに、強烈な形で表れるようになった。

 まず、2014年初めからは、米国経済の景況の先行きに敏感な米国の小型株の株価の低迷が始まった。同年半ばからは、原油などのエネルギー、食糧、原材料、金属などのドル建ての国際商品相場の大暴落が始まった。同年秋には、米国連銀の量的緩和政策の完了を目前にして、ニューヨークなどの世界の主要株式市場では、株式相場の大動揺が起きた。

 日本銀行は、米国連銀の量的緩和政策の完了を補完するかのように、2014年10月末に量的緩和政策の積み増しを打ち出した。欧州中央銀行も、2015年明けに、量的緩和政策の発動を打ち出し、同年3月から実施し始めた。

 2014年11月初め以降では、日本の日経平均株価は、1万5千円前後から、2015年半ばの2万1千円近くまで、約6千円もの急上昇を見た。米国、欧州、中国などの主要株式市場でも、同様な動きが見られた。

 万事が好調に推移しているかに見えたのは、2015年半ばまでであった。米国連銀の政策金利の引き上げ観測が強まると、米国、欧州、日本、中国などの株式相場は、急落に転じたからである。中国の上海株式相場の上海総合株価指数は、5000ポイント以上の水準から、2015年1月までに、ほぼ半値の水準にまで文字通りの大暴落を演じた。

 2015年12月16日に、米国連銀が、政策金利を、0・25%から0・50%の範囲への引き上げに実際に踏み切ると、欧州や日本の株価指標も、2015年の高値から20%以上の下落を演じる弱気相場に転じた。米国のダウ工業株平均(30銘柄)やS&P500株価指数の今年3月中旬までの最大下落率は、かろうじて20%未満にとどまった。しかし、多くの米国の主要企業の株価は、2015年の高値から20%以上の大幅な下げを演じる弱気相場に突入している。

世界経済のコペルニクス的転換

 米国連銀の量的緩和政策の過程で、米国連銀も意図していなかったと見られる結果が起きている。米国経済よりも経済活動の実質規模が大きく、国際貿易の規模も大きい中国経済が早期に出現したことがそれである。

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筆者

齋藤進

齋藤進(さいとう・すすむ) 三極経済研究所代表取締役

(株)三極経済研究所・代表取締役。1950年静岡県生まれ。73年京都大学経済学部卒、73年より、国際関係研究所客員研究員(台北)、76年ミシガン大学大学院経済学博士課程修了。フォード財団特別研究員、ウォールストリートで、金融機関、機関投資家、国際機関向けの独立経済コンサルタント業、クレディ・スイス銀行(東京)経済調査部長兼チーフ・エコノミストなどを経て、1990年より現職。「平成不況」の名づけ親として、多くの経済政策論文・論説を発表。著書に『平成不況脱出』(ダイヤモンド社)、『平成金配り徳政令』(講談社)など。世界の100人のTop Political Columnistにも選ばれている。 【2016年8月WEBRONZA退任】

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