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いまのふるさと納税はおかしい

見返りを求める寄付は、日本の寄付文化を歪めかねない

佐藤主光 一橋大学教授

ふるさと納税の実態は「特産物の通販」

 ふるさと納税の理念は「お世話になった地域への恩返し」であり、「応援したい自治体へのサポート」である。寄付の使い方を指定できることから「使われ方」を考えたり、「自治体が国民に取り組みをアピール」したりする契機になることが期待されてきた。しかし、その実態はこの理念からかけ離れている。自治体は特産物など手厚い返礼品を出すことでふるさと納税の獲得競争を繰り広げ、寄付する側も応援したい地域ではなく、好みの特産物が返礼される地域を寄付先に選んだりしている。率直に言って、ふるさと納税は寄付ではなく、「特産物の通販」だ。

 何故、このような事になったのだろう?その背景にはふるさと納税の仕組みがある。ふるさと納税(といっても実質的には寄付)をする個人は、寄付額から2千円を差し引いた金額を所得税と自分が住んでいる自治体の個人住民税(所得割)から控除することが出来る。所得割の納税額の2割を上限に控除の特例分が適用される結果、寄付額マイナス2千円が全額減税される。つまり、個人の持ち出しは2千円で済むことになる。仮に1万円を寄付して、5千円相当の返礼品を受け取ったとしよう。個人は2千円払って5千円分の買い物をした(3千円のお得)に等しい。寄付=ふるさと納税を受け取った自治体の収入は返礼品を差し引いて5千円(=1万円―5千円)になる。

 他方、納税した個人の地元自治体と国は減税で8千円の税収を失う計算だ。正確にいえば、地元自治体が交付団体の場合、その減収額は交付税で補てんされるから、その分、国の負う負担が大きくなる。8千円の税収減は最終的には地元自治体あるいは国民全体に対するしわ寄せになる格好だ。この類のスキームに「ただ飯」はない。結局、寄付した個人のお得分(この例では3千円)は皆の負担になるのである。

返礼品にパソコンも登場

 返礼競争の過熱振りは目に余るものがある。中には「ふるさと感謝券」と称して寄付者に対して換金性の高い金券を配ったり、地元の工場が生産するパソコンを返礼に充てたりする自治体もある。返礼品の価値が寄付額に占める割合は「ふるさと感謝券」で7割余りになるという。上の例でいえば、1万円ふるさと納税して2千円の自己負担で7千円の現金を手に入れた格好だ。ふるさと納税の趣旨に鑑み、総務省はこうした換金性の高い返礼品の自粛を求めているが、返礼品競争が収まる気配はない。水産加工品の返礼品が好評で新たに工場を新設した自治体や返礼品に充てるため従前の販売ルートへの提供量を減らした自治体もある。ふるさと納税が国の所得税から控除されることを利用して地元の住民にまでふるさと納税を認めた「独創的」な自治体まで出てきた。

 総務省の現況調査(2015年10月)によると「ふるさと納税の受入額及び受入件数が増加した主な理由」として「返礼品の充実」を挙げた自治体は全体の4割あまりに上る。他方、「使途、事業内容の充実」と回答した自治体は4%に過ぎない。

 自治体の側に立てば、これは当然の結果といえる。近隣の自治体が高額の返礼品を出しているとき、自分だけ地道な返礼品に留めていては、ふるさと納税は増えていかない。住民が他の自治体にふるさと納税するなら、かえって税収が減ることに繋がりかねない。各自治体からすれば高額商品の返礼は自己防衛な面もある。こうした競争は他の自治体の損失=減収で自身の財源の確保を図る「近隣窮乏化」的な性格があり、自治体が地域や取り組みの魅力を高めたりすることには繋がりそうにない。切磋琢磨を通じて新たな価値や工夫の創造が「良い競争」なら、ふるさと納税に起因する競争は「悪い競争」にあたる。

「黒字」の7割が上位100自治体に集中

ふるさと納税の収支ふるさと納税の収支
 無論、こうした競争には勝ち負けがある。かつ勝者は決して多くはない。朝日新聞(2016年4月13日付)によれば、ふるさと納税の受け入れ額から(住民の寄付による)減税額を差し引いた収支の「黒字」の7割が上位100自治体に集中したという。都市部の自治体には「赤字」の
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