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米国大統領選に見る「米帝国の終焉」

一極支配の終わりと、本格的な多極化世界へ

齋藤進 三極経済研究所代表取締役

外交官の講演

 米国の高名な外交官OBであるチャズ・W・フリーマン・ジュニア(Charles W. ("Chas") Freeman, Jr.)氏が、「米帝国の終焉、The End of the American Empire」と題する講演を、今月の4月2日に行い、その全文が、同氏のブログや、War on the Rocksに掲載されている。

http://chasfreeman.net/the-end-of-the-american-empire/

http://warontherocks.com/2016/04/the-end-of-the-american-empire/

 折しも、現在進行中の米国の民主党、共和党の大統領選挙の予備選挙では、米国が世界にいかに軍事的に関わるべきかが、大きな争点となっている。

 この争点をめぐっては、民主党も共和党も、党内が真っ二つに割れていると言っても、過言ではないであろう。

 民主党ではサンダース候補(上院議員)、共和党ではトランプ候補が、共に、米国の対外軍事的な関与に掛かる経済的な負担を軽減して、米国の国内経済の再建に注力すべきとしているからである。

 反対に、民主党ではクリントン候補(前国務長官)と同党指導層、共和党では同党指導層とトランプ氏以外の候補は、現状維持を唱えていると分類されよう。

 本稿では、米国の軍事費が、1930年代初頭の大恐慌・大不況期以降から最近までの期間にいかに推移したかを振り返り、今後の動向が日本・東アジアなどに持つ意味を、米国の大統領選と関連させながら考えたい。

米国の軍事費の推移

 米国の名目国内総生産(GDP)、国防費(軍事費)、公共投資(構造物)のGDPに占めるシェア(%)の推移を要約したのが、図1と図2である。

米国の国防費、公共投資(構造物)のGDPにしめるシェア(%) 1930年~2015年拡大米国の国防費、公共投資(構造物)のGDPにしめるシェア(%) 1930年~2015年

 

米国の国防費、公共投資(構造物)のGDPにしめるシェア(%)1970年~2015年拡大米国の国防費、公共投資(構造物)のGDPにしめるシェア(%)1970年~2015年

 第2次世界大戦前の米国は、現在のような軍事中心の国であった訳ではない。1939年9月に、欧州大戦の形で第2次世界大戦が始まる前では、米国の国防費の対GDP比率は、1.5%前後に過ぎなかった。反対に、景気浮揚策の意味もあった公共投資の対GDP比率は、3%台から4%台で推移していた。

 ところが、1941年12月の日米開戦で、欧州大戦と併せて、本格的に第2次世界大戦に拡大すると、軍事費の対GDPは、1944年のピーク時には43.3%に跳ね上がった。

 米国の失業率は、大不況の最悪期には20%以上もあったが、ニューディール政策でも、その景気対策としての不徹底さで、欧州大戦勃発前には、15%前後以下には低下しなかった。しかし、戦時特需で、1944年の失業率は1%台にまで低下した。

 米国本土が戦場にならず、勝ち戦(いくさ)であったこともあり、「大砲も、バターも」が、第2次世界大戦後の世界に臨む米国の大多数の国民の原体験となったと言って過言ではないであろう。

 戦場の悲惨さを直接に体験したのは、徴兵された当時の青年層と職業軍人だけで、米国の全国民の中では、少数派に過ぎなかったことに留意するのが肝要である。

 第2次世界大戦後には、米国の軍事費の対GDP比率は一時的に低下したが、1950年6月の朝鮮戦争勃発後の1953年には15.7%に跳ね上がり、1970年までは10%以下に低下することはなかった。

 1950年代に、米国の過剰な軍事国家化を招いたアイゼンハワー大統領(共和党政権)は、1961年1月の退任演説で、「軍産複合体the military-industrial complex」が、米国社会の政治などに過大な影響を及ぼすことの危険に関して、警鐘を鳴らした。

 しかし、時は既に遅く、いったん出来上がった利権構造を変革するのは非常に難しい。最近では、単に軍産複合体ではなく、軍・産・政治・大学シンクタンク・マスコミの複合体と言った方が適切であろう。

 政治の中には、連邦レベルだけではなく、州・地方レベルの行政府と立法府(議会)の双方が含まれる。司法府も、行政府に任命され、立法府の承認で成立している訳であるから、軍・産・政治・大学シンクタンク・マスコミの複合体の一部を成していると言っても過言ではないであろう。

 ストックホルム国際平和研究所の推計(2014年)によると、米国の軍事支出は6100億ドルと、世界の軍事支出の総計の34・3%と、3分の1以上を占める。米国に次ぐ第2位から第10位の中国(2160億ドル)、ロシア(845億ドル)、サウジアラビア(808億ドル)、フランス(623億ドル)、イギリス(605億ドル)、インド(500億ドル)、ドイツ(465億ドル)、日本(458億ドル)、韓国(367億ドル)の合計の6829億ドルと大差はない。

トランプ・サンダース現象とは

支持者らを前に話すトランプ氏拡大支持者らを前に話すトランプ氏

 では、膨大な軍事費の負担の見返りに、米国の有権者の大多数は、何を得たか?

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筆者

齋藤進

齋藤進(さいとう・すすむ) 三極経済研究所代表取締役

(株)三極経済研究所・代表取締役。1950年静岡県生まれ。73年京都大学経済学部卒、73年より、国際関係研究所客員研究員(台北)、76年ミシガン大学大学院経済学博士課程修了。フォード財団特別研究員、ウォールストリートで、金融機関、機関投資家、国際機関向けの独立経済コンサルタント業、クレディ・スイス銀行(東京)経済調査部長兼チーフ・エコノミストなどを経て、1990年より現職。「平成不況」の名づけ親として、多くの経済政策論文・論説を発表。著書に『平成不況脱出』(ダイヤモンド社)、『平成金配り徳政令』(講談社)など。世界の100人のTop Political Columnistにも選ばれている。 【2016年8月WEBRONZA退任】

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