パナマ文書が曝した中露などの桁外れの蓄財
2016年05月12日
「パナマ文書」によって、「タックス・ヘイブン(租税回避地)」を利用する世界の政府要人や富裕層の実態が明らかになった。
中でも中国・ロシアなど新興国の首脳一族や側近による事例が目につく。蓄財の金額が大きく、国家経済に寄生虫のように住みついて私腹を肥やしている点で悪質度が高い。
中露のほか、大統領や首相の名前が出てきたアルゼンチン、マレーシアなど新興国に共通するのは、富の再分配を目的とする累進税率の相続税がそもそも税制度にないことだ。これが権力者一族による巨額の蓄財を許す温床になっている。
主要な先進国には相続税が導入されている。日本の場合、税率は10~55%であり、資産額が大きいほど税率が高くなる。明治時代の日露戦争で戦費調達のために初めて導入され、第2次大戦後は財閥への富の集中を排除する目的で改正された。
米欧でも相続税は主に第2次大戦前後に導入された。「一般市民が命を張って戦っているときに、金持ちは何をしているのか」という世論が強まり、時の政府はこれを味方にして富裕層の反対を押し切り、導入を実現したのである。
これは逆に言えば、平時において相続税を一から導入することがいかに困難かを示している。富裕層は国の政策に強い影響力を持っている。世界大戦のような歴史的大事件でも起きない限り、彼らに累進課税を飲ませることは困難なのだ。
これに対し、新興国の多くは1970年代以降に急成長した。世界大戦のような危機を経験しておらず、「相続税なし」のままの国が大部分だ。導入の動きがあっても支配層の画策で潰されてしまう。中国、ロシアはその典型である。
中露など新興国は、社会制度やモラルが未整備なまま資本主義経済に突入した。インフラ建設、株式上場、政府補助金、外資導入など、政府中枢やその親族が私腹を肥やす機会は無数に存在する。
しかし、累進税率の相続税がないので、こうした権益が生む富は親から子へ代を経るごとに大きく蓄積し、一族を太らせていく。
パナマ文書では、もっぱらタックス・ヘイブンの規制強化に視点が行っている。しかし、その前段階として、タックス・ヘイブンを利用するような富裕層がますます富み、格差が拡大する国家の構造を改革する方が先ではないだろうか。
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