現実の変化に即して物の見方を変えないと、見るべきものも見えなくなる
2016年05月27日
パラダイムシフト(paradigm shift)という英語の表現がある。英語の単語を持ち出して恐縮だが、要するに、物の見方の転換、ある時代や分野で、当然のことと考えられていた認識や思想、社会全体の価値観などが革命的、劇的に変化することをいう。
例えば、天文学の世界では、2世紀のプトレマイオスが集大成した天動説が、16世紀の初期に、ポーランドの司祭でもあったコペルニクスにより、地動説が「再発見」されたことが、パラダイム・シフトといえよう。
しかし、パラダイム・シフトが定着するには時間がかかる。ガリレオが、コペルニクスの地動説を唱えて、カトリック教会の裁判で有罪判決を受けたのは、コペルニクスが地動説を再発見してから1世紀余りも後のことであった。
今回は、このパラダイム・シフトの重要性を、最近の具体的ないくつかのトピックスに関連して考えてみよう。
まず、米国の大統領予備選挙の見通しに関して、1年余り前の状況はいかがであったか。
共和党では、ジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事(ブッシュ親子大統領の息子・弟)が最有力、民主党は、クリントン前国務長官・元上院議員で、初めから100%決まりと、ニューヨーク・タイムズ紙、ワシントン・ポスト紙などの主要新聞、CBS,NBC、ABC、CNN、FOXなどの主要テレビ関係者の大多数は見なしていた。
しかし、米国の主要マスコミの関係者の見通しは、ほとんど全員が外れた。
米国の主要マスコミ、その記者、コラムニスト、キャスター、コメンテーター、評論家などの言う事を、単に復唱する域を出ない日本の(在米者も含め)多くの「米国通」も、同じ憂き目に遭(あ)うことになった。
共和党では、昨年6月の立候補表明当初は冗談扱いにされていたドナルド・トランプ氏が、大統領候補に実質的に決まった。民主党では、全米的には全く無名で、昨年4月の立候補表明時には泡沫候補扱いにされていたバーニー・サンダース上院議員(バーモント州選出)が、民主党を二分し、いまだに予備選で、クリントン前国務長官に迫る戦いを展開している。
米国の主要マスコミの関係者のほとんど全員の見通しが外れたのには、それなりの理由がある訳である。
目の前の米国の経済社会の現実は、極端な不平等社会に変質するなど、最近の30年間余りで大きく変わった。米国の経済社会を見る新たなパラダイムが必要になっている訳である。
それにも関わらず、旧来の米国社会のパラダイムで、トランプ・サンダース現象を見ようとする既存のエリート層には、常軌を逸した多くの米国の有権者が、同様の大統領候補たちの奏でる音曲に合わせて、激しく踊っているようにしか見えなかったとしても不思議ではない。
米国民の大多数の政治経済的な不満の源泉が見えていなければ(敢えて、見ようとしていなければ?)、米国の既存のエリート層は、自国の目の前の政治現象に対して、トンチンカンな対応を繰り出すことになった訳である。
第2に、今年は日本が議長国になって開催のG7首脳会議、各分野の担当大臣会議、中央銀行総裁会議も、パラダイムシフトに襲われているといえよう。
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