根深い会社の組織風土、「消費者目線」が欠如している
2016年05月30日
三菱自動車による燃費データ不正が起こった要因は、大きく3つの問題に分けることができる。まずは、2000年と04年に発覚したリコール隠し問題の頃から指摘される同社の組織風土の問題だ。
この問題は根深い。三菱自動車は1970年、三菱重工業の自動車部門が分離独立、米クライスラーとの合弁で設立された。当時を知るOBは筆者の取材にこう語った。「アメリカ人に本当のことを報告しないために資料を二種類作って管理した。これが、面従腹背や隠蔽体質の始まりではないか」
今回の燃費データ不正も過去のリコール隠しも、結局は「消費者目線」が欠如しているから起こるのだ。この点については三菱グループの中でも「重工DNA」を指摘する声は多い。
「親」である三菱重工業は、防衛省向け装備品(イージス艦など)や発電プラント、ロケットなどの生産を得意とし、最終消費財はほとんど造っていない。いわゆるBtoBの取引を中心に置いているため、自社製品が大衆消費者にどう評価されるかなどを気に掛ける必要はほとんどない。また、重工には、自動車よりも飛行機や船を造る方がずっと難しいと考える変なプライドがあった。自動車はこうした重工の風土をずっと引き継いでいる。
筆者が新聞記者として担当していた頃は、自動車の幹部や役員はまだ重工からの転籍組が大半で、「うちがトヨタに負けるのは運が悪いだけだ」と平気でうそぶく人もいたが、時が経ち、重工の経験がない生え抜き入社も増えたわけで、単純に「重工体質」が原因と片付けられない問題がある。
それは開発哲学や開発マネジメントの問題だ。自動車産業界では環境や安全面の技術開発競争が激しい。中でも燃費技術は、燃費がよいと税制優遇が受けられることでそれが販売増につながるため、熾烈な開発競争が起こっている。燃費を良くするためには、コンピューター技術を駆使したハイブリッドやEVなどの新しい動力源に加えて、材料や車体の軽量化など開発分野は多岐にわたる。このため、設備投資額と研究開発費で計2兆円近い資金を持つトヨタでさえも経営リソースが足りない状況になりつつある。
こうした状況下で15年度の三菱自動車の設備投資額と研究開発費は合わせて1477億円でトヨタの10分の1にも満たない。三菱と生産規模がほぼ同じ富士重工業(スバル)でも三菱の1・6倍の2381億円ある。
少ない資金でもしっかりした開発哲学とそれをマネジメントする能力があれば、消費者に評価される良い製品はできる。スバルも環境技術への投資は一定のところで割り切り、少ない資金を走行性能やデザインなどで差別化を図る戦略に使った。市場も評価が高い北米にフォーカスしている。そしてマスを追わず、特定ファンを囲い込んでいく戦略だ。
経営危機から立ち直ったマツダも乏しい資金を内燃機関の進化に仕向けることで「スカイアクティブエンジン」を誕生させてヒット車を連発、
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