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世界最大級の巨大経済圏=TPPはどうなるのか?

米国の状況とならび、日本国内でのTPP承認手続きも不透明になってきた

小山田研慈 朝日新聞編集委員(農業、TPP、農協)

 太平洋を囲む12カ国の閣僚が2月に署名した環太平洋経済連携協定(TPP)が足踏みを続けている。TPPは、米国と日本の議会で承認されないと発効しない仕組みになっている。大統領選が大詰めを迎えている米国では議論が止まっており、日本でも通常国会での関連法案の成立が先送りされた。世界最大級の巨大経済圏はどうなるのか。

米大統領選後に承認?

集会で演説するクリントン前国務長官=ランハム裕子撮影拡大集会で演説するクリントン前国務長官=ランハム裕子撮影

 米国でのTPPの扱いは今後はどうなるのか。

 日本政府や、米国で取材している同僚記者の分析などを総合すると、年内には承認されるというシナリオが、現時点では最も可能性が高そうだ。

 具体的には、次期大統領が決まる11月上旬ごろから、来年1月20日の就任式までの間に議会で手続きが進むという見方だ。

 民主党ではクリントン氏が、共和党ではトランプ氏が、大統領選の候補者になることが確実となった。二人とも、TPPについては反対している。

 クリントン氏はもともとはTPPに賛成してきた。しかし、同じ民主党内の候補者のサンダース氏が、TPPに反対して支持を得ているため、それを意識して反対に回ったとされる。

 トランプ氏は、現政権の民主党の政策を批判する一環としてTPPを否定している面がある。両者ともTPP反対は、選挙のためのものであり、大統領になることが決まった段階では、「反対」を続ける理由がなくなる。しかも、オバマ政権時代に承認してくれたほうが「自分が通したわけではないと言えるので都合がいい」(政府関係者)。

米国にとって代表的なメリットとは

支援者を前に演説するドナルド・トランプ氏=ロイター拡大支援者を前に演説するドナルド・トランプ氏=ロイター

 TPPを承認しないと、米国にとって一定のメリットを失うことになる。業界によっては合意内容に不満はあるが、「ゼロ」よりはまし、という現実の判断が働くとみる関係者は多い。

 代表的なメリットは牛肉だ。38・5%の関税が16年目には9%になる。日本市場は有力で安定的な市場だ。牛肉の輸出について米国のライバルである豪州は、日本との間で経済連携協定を結び、2015年に発効している。豪州の牛肉はすでに関税が下がり始めており、最終的には約20%になる。TPPを承認しないと、豪州の一人勝ちを許してしまうことになる。

 米国にとって牛肉は最も重要な輸出品だ。

 新しい米国の大統領がごねたとしても、TPPの再交渉は難しいと見られていることも背景にある。すでに12カ国で2月に署名済みだ。米国以外の11カ国が再交渉に応じないといけない。各国とも、国内の政治状況などをやっと乗り越えて合意に達した。

 米国は韓国と交渉していた経済連携協定に07年に合意したが、再交渉に持ち込んだ。しかし、二国間での協定だったので無理が利いたというのが専門家の見方だ。

 面白い話がある。

 日本のTPP交渉チームの中で、常に悲観的で、厳しい見方をしてきた有力者がいる。結果的には、交渉の行方をぴたりとあててきた人物だ。多くが合意するとみた昨年7月のハワイ交渉では「合意しない」とし、多くが合意しないとした9~10月のアトランタ交渉では「今回は合意する」と予言し、実際に、そうなった。

 その人は最近も周辺にこう話している。

 「米国は大統領選後にTPPを承認する。最後は現実的なバランス感覚が働く。40年間米国を見てきたおれの勘だ」

 TPPに批判的なマレーシア出身の経済学者で、国連経済社会局の幹部などを務めたジョモ・K・スンダラム氏もこう語る。

 「米国は、大統領選後からクリスマス休暇までの間にTPPを承認するだろう。米国の政治家は、政治資金を大企業に頼っている。(TPPをすすめたい)大企業の判断に従うはずだ」。5月30日に都内の会見で述べた。

 では、もし、今年の11月から来年の1月までに米国がTPPを承認しなかったらどうなるか。

 早ければ17年とみられていたTPPの発効が大幅にずれ込むことになる。

 クリントン、トランプ氏とも、大統領選ではTPP反対を訴えている。当面は、再交渉の道や、本協定外での覚書のような性格の「サイドレター」で調整するなどの道を探らざるをえない。これだけで1年ぐらいは時間がかかるだろう。しかし、ほかの11カ国が応じる可能性は低い。

 トランプ氏が大統領になった場合はより深刻だ。

 かなり強硬に反対しただけに、再交渉を探りながら、関連法案を議会に提出できず、「事実上、たなざらしになることもありえる」(日本政府関係者)。

 TPPは、市場規模が大きい米国と日本が承認しないと発効しない仕組みになっている。TPPがしばらく宙にうく可能性もある。

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筆者

小山田研慈

小山田研慈(おやまだ・けんじ) 朝日新聞編集委員(農業、TPP、農協)

1966年、青森県生まれ。49歳。1989年、早稲田大学社会科学部卒。同年、産経新聞社に入社し、経済部で活動。97年に朝日新聞社に入社。甲府支局、名古屋経済部、東京経済部、新潟総局などを経て2013年4月から東京本社報道局編集委員(担当・農業、TPP、農協)

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