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ブラックバイト問題の背景に学生の貧困化

学費の値下げや奨学金制度の充実が必要だ

今野晴貴 NPO法人POSSE代表

 最近のブラックバイト問題の広がりを受けて、厚生労働省は大学生や高校生に対する調査を行った。詳細は省くが、その結果わかった重要な点は、学生たちに勤務時間のシフトの自由が与えられていない場合が多いということだ。シフトに自由がないということは、自分たちの予定、つまりは学業と両立させて働くことが難しい。

重い責任を負わされ、「正社員」と同じように働かされる

今野原稿につく写真バイト先から届いた損害賠償の支払い同意書
 この調査結果は、私たちがこれまで指摘してきた「ブラックバイト問題」の定義を裏付けるものだ。それは、「学生であることを尊重しないアルバイト」というものだ。ブラックバイトは、学生であるにもかかわらず重い責任を負わされ、あたかも「正社員」と同じように働かされる問題なのだ。

 私が代表を務めるNPO法人POSSEには、学生やその親から膨大な量の相談が寄せられている(なお、ブラックバイトの背景や具体的な対処法は拙著『ブラックバイト 学生が危ない』(岩波新書)に詳しく書いたので、ぜひ参考にしてほしい)。

 具体例を挙げよう。

 大学1年生のAさんは、2014年5月に、全国約350店舗を構える飲食店「しゃぶしゃぶ温野菜」のアルバイト求人に応募した。そのフランチャイズ本部である株式会社レインズインターナショナルは、「牛角」「かまどか」「土間土間」などの有名飲食店を経営する大企業である。求人への応募後すぐに採用面接があり、Aさんはレインズインターナショナルとフランチャイズ契約を結ぶ「DWEJAPAN株式会社」が運営する店舗で働くことになった。

 働き始めた当初、Aさんは、契約通りの週4日、17時から23時くらいまでの勤務で、洗い場と接客の仕事をしていた。決して悪い職場環境ではなく、大学にも毎日通うことができていた。

 しかし、2014年12月頃の鍋物の繁忙期に、フルタイムで働いていた「フリーター」の男性が突然退職したのを皮切りに、4、5人のアルバイトが退職していき、店舗は深刻な人手不足となってしまった。その結果、Aさんは週5、6日勤務となり、閉店後に大量の食器洗浄や店舗全体の清掃を行う「クローズ作業」も任されるようになった。この仕事を覚えて以降は、もっぱらAさんが引き受けざるをえないようになり、Aさんは店舗運営に欠かせない戦力となった。

 あまりの忙しさから、Aさんは店長に退職したい旨を伝えた。しかし、店長は「人数が今でも足りないのに、あなたが辞めたら店が回らなくなる」「本当に辞めるのなら、懲戒解雇にする。懲戒解雇になったら就職できなくなるよ」と脅したという。Aさんは店長の言葉を信じてしまい、退職を諦めた。

1年間、大学の単位を取ることができず

 2015年2月には、大学の春休みに入ったことを機に、Aさんは開店前の仕込み作業と店舗の鍵開けも任されるようになった。仕込みを担当するようになってから、14時から26時頃まで休憩もなく働き続け、ほとんど休日も与えられなくなった。Aさんは、こうした状況に耐えかねて3月頃に改めて退職の意思を店長に伝えた。すると店長は「店舗の衛生状態が悪かった」「皿を割った」などとAさんの仕事ぶりを責め立て、「お前どうやって責任取るんだ。死んで責任をとるしかないぞ」と言い放ち、激しい剣幕で怒鳴り、胸倉を掴んできたという。Aさんは恐怖を感じ、仕事を続けるしかなかった。

 こうして、Aさんは1年間まったく大学の単位を取ることができなかったのだ。やや極端なケースではあるが、類似の事態は、コンビニや個別指導塾で働く学生からも頻繁に寄せられる。就職活動が始まったのに、シフトを入れられて、希望の会社を受けられなかったというものや、資格試験の日にシフトを入れられて試験を受けられなかったというものは定番だといってもよい。

事件を起こしているのは「特殊な企業」ではない

 では、なぜアルバイトは「ブラック」になってしまうのか。まず、ブラックバイトの事件を引き起こしているのは、決して「特殊な企業」ではないということが重要だ。

 学生が多く働く外食や小売り、個別指導塾などの企業では、業務をとても単純化していて、学生でも「中心的戦力」にできるようにしている。

 例えばコンビニでは、店長も数カ月の研修を受けただけで開業している。業務のやり方はすべてマニュアル化されている。だからこそ、時給の安い学生にマニュアルを徹底的に遂行させることで、経費を限界まで削減することが可能になってしまう。

 しかも、居酒屋やコンビニは深夜営業を行うため、

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