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酪農家が経営努力をすればするほど乳牛が減る?

バター不足だけではない酪農業界が抱える構造的問題

青山浩子 農業ジャーナリスト

矛盾するような問題が表面化

 バター不足が長期化している。

 2014、15年に続き、政府は16年も6千トンの緊急輸入を決めた。バターは牛乳の生産量に余裕があるときに作りだめをしておく。足らないということは作りだめをする間がない、つまり牛乳の生産量に余裕がないということだ。

 酪農家の高齢化による離農、後継者不足が原因とされている。酪農家の数は(2015年)は約1万8千戸で10年前から1万戸減った。生乳生産量は(同年)は741万トンで、10年前から1割以上減った。

 問題はこれだけではない。

 酪農家が経営を安定させようとすればするほど、牛乳を生産するための牛が減ってしまうという、一見矛盾するような問題も表面化している。

 酪農家は乳用牛(主にホルスタイン種)からお乳を搾るために、常にメス牛を妊娠・出産させる。生まれた子牛がメスであれば、次世代の搾乳牛として育てるが、お乳を出さないオス牛が生まれると、子牛のうちに市場に出荷する。こうした子牛ばかりを集めて育てる農家もいて、農家のもとで大きくなった牛は市場に出荷され、スーパーで「国産牛」として販売される。

 ただ、これらの国産牛は和牛と異なり、輸入牛肉との品質差が少なく、価格も輸入牛肉に引っ張られて安値で販売されがちだ。その影響で、酪農家が市場に出荷する子牛の値段も安い。そこで酪農家は、お母さん牛からホルスタイン以外の牛を産ませる手法をとるようになった。

 それが交雑種(F1)の生産だ。ホルスタインと和牛を掛け合わせたいわゆるハーフだ。

 一般的な国産牛より割高だが、適度に脂肪(サシ)が入っており、和牛ほど高値でもない。交雑種の生産は最近始まったものではなく、昭和60年代から少しずつ増えてきた。いまでは肉用牛の頭数全体の約20%を占める。

売り上げや利益を確保するための方法

 交雑種以外にも、メスのホルスタインのおなかに和牛の受精卵を移植して和牛を生ませる方法もある。白と黒のツートンカラーのホルスタインが、おなかの中で褐色の和牛を育てるという不思議な現象だが、酪農家が売り上げや利益を確保するためのひとつの方法なのだ。

 母牛のおなかはひとつだ。乳用牛の代わりに肉用牛を宿して産めば、それだけお乳を出してくれる牛の誕生が減る。肉が大事か、牛乳が大事か――人によって意見は分かれるだろうが、乳用牛には乳用牛を産んでほしいという消費者は少なくないだろう。

 ところが現実には、酪農家による肉牛用の子牛生産が増える傾向にある。背景には2011年から続いている肉用子牛の価格高騰がある。

 東日本大震災で東北地方が広く被災し、肉牛の生産や流通が停滞した。さらに同年、全国各地に牧場を保有していた安愚楽牧場が経営破たんした。同牧場は個人投資家に和牛の子牛のオーナーになってもらい、その売却益を配当として還元するオーナー制度が行き詰まったことによる。

 このため、全国的に子牛の数が不足し、子牛の相場が高騰。このことが皮肉にも肉用牛の子牛を育てる高齢農家の離農を促した。相場のいい時に牛を売却し、離農するきっかけを与えてしまったのだ。

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筆者

青山浩子

青山浩子(あおやま・ひろこ) 農業ジャーナリスト

1963年愛知県生まれ。86年京都外国語大学英米語学科卒業。JTB勤務を経て、90年から1年間、韓国延世大学に留学。帰国後、韓国系商社であるハンファジャパン、船井総合研究所に勤務。99年より農業関係のジャーナリストとして活動中。1年の半分を農村での取材にあて、奮闘する農家の姿を紹介している。農業関連の月刊誌、新聞などに連載。著書に「強い農業をつくる」「『農』が変える食ビジネス」(日本経済新聞出版社)「農産物のダイレクト販売」(共著、ベネット)などがある。茨城大学農学部非常勤講師もつとめる。

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