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何から何まで失敗だったー厳しい評価を下した英国

チルコット委員会が発表した260万語に及ぶイラク戦争検証報告書を読み解く

小林恭子 在英ジャーナリスト

 7年の歳月をかけた260万語に及ぶ5度目の報告書

チルコット委員会のウェブサイト拡大チルコット委員会のウェブサイト

 イラク戦争における英政府の政治判断と戦後の施策を検証する「イラク調査会」(通称チルコット委員会)が、7月6日、7年間の調査を終え260万語に上る報告書を発表した。開戦当時の首相トニー・ブレア氏が不正確な諜報(ちょうほう)情報を下に、戦後の十分な計画がないままに英国を戦争に巻き込んだことを厳しく批判した。報告書の概要と国内の反応、その意味合いを紹介したい。

 チルコット委員会についての前回の記事でも触れたが、英国でイラク戦争について調査委員会が設置されたのはこれが初めてではない。

https://webronza.asahi.com/business/articles/2016060900001.html

 下院の外務委員会や議会の情報保全特別委員会による調査の他に、独立調査委員会として立ち上げられた「ハットン委員会」(2003−4年)や「バトラー調査」(2004年)があった。

 2009年から調査を開始したチルコット委員会(委員長ジョン・チルコット氏)は、開戦前後の政治判断について吟味し「教訓を学ぶ」ために設置された。

これほど白黒はっきりした判断が出るとは……

ブレア氏が嘘をついたと繰り返す、抗議デモの様子=7月6日、ロンドンのクイーンエリザベスⅡセンター(QE2センター)から通りを隔てたビルの前で拡大ブレア氏が嘘をついたと繰り返す、抗議デモの様子=7月6日、ロンドンのクイーンエリザベスⅡセンター(QE2センター)から通りを隔てたビルの前で

 「英国は武装解除など平和的な選択肢に手を尽くさず、イラクへの侵攻を決定した。軍事行動は唯一の最終的選択ではなかった」

 「(開戦の)2003年3月時点、イラク・フセイン大統領は差し迫った脅威ではなかった。イラク封じ込め作戦を強化することもできた。国連安保理の大部分がイラク内で核査察検査を続けることを支持していた」

 「イラクの大量破壊兵器の重要性を確かな情報として提示したが、これは正当化できない」

 「フセイン大統領が化学・生物兵器を継続して開発していたという諜報情報には十分な裏付けがなかった」

 「対イラク政策は破綻した諜報情報の査定に基づいていた」

 「英国のイラク侵攻に法的な根拠があると決定するまでの過程は満足できないものだった」

 「(新たな国連決議なしに侵攻を決めた)英国の行動は国連安保理の信頼性を弱体化させた」

 「明白な警告が出ていたにもかかわらず、政府は侵攻後の状況を軽視していた。フセイン後のイラクの運営計画と準備は全く不十分だった」

 「(イラクを平和な民主的な国にするという)目的を達成できなかった。200人以上の英市民が亡くなり、イラクの国民が苦しんだ。2009年までに少なくとも15万人のイラク人が亡くなった.100万人がイラクから脱出した」。

 ブレア元首相はイラクの脅威を誇張し、準備が十分に整っていない状態で軍隊を送り、戦後の復興策も「まったく不十分」—チルコット報告書はこう結論付けたことになる。

 何から何まで、失敗だったという評価だ。

 ブレア氏が批判されることは予期されていたが、これほど徹底的な、白黒がはっきりした判断が出ようとはほとんどの人が思っていなかった。

 BBCの政治記者ローラ・クエンスバーグ氏は、チルコット報告書を「明白、手厳しい」(6日付)と評した。ハットン委員会の報告書は、発表直後(政府の)「ごまかし(=ホワイトウォッシュ)だ」と言われたが、今回ばかりはこれに該当しない。

 フセイン政権打破を主目的としてきた米ブッシュ大統領(当時)にブレア氏が送った、「何があっても、大統領の側にいる」という文言が入った書簡も報告書の一環として公開された。対米関係を重視したブレア氏が当初から侵攻も辞さない姿勢だった可能性を示唆した。

 「教訓」としてチルコット報告書は、「将来、いかなる干渉であっても、十分に思慮し、議論することが必要」と書いた。

 イラク戦争で戦死した英兵179人の遺族らはチルコット報告書をおおむね評価したが、「ブレア元首相自身こそがテロリストだ」と述べる遺族もいた。

 報告書は6日早朝に遺族やメディア関係者に公開された後、午前11時過ぎからチルコット委員長がウェストミンスターにあるQE2センターで会見を開いてその内容を明らかにした。

 午前11時半過ぎ、委員長のスピーチ及び報告書が調査会のウェブサイトからダウンロードできるようになった。

 センター近くでは反戦運動組織が中心となってブレア氏のイラク侵攻に抗議するデモが行われた。ブレア氏に扮した人物の隣に裁判官が並ぶパフォーマンスの場に集まった参加者は「ブレア、嘘つき、刑務所に送れ」と繰り返した。

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筆者

小林恭子

小林恭子(こばやし・ぎんこ) 在英ジャーナリスト

秋田県生まれ。1981年、成城大学文芸学部芸術学科卒業(映画専攻)。外資系金融機関勤務後、「デイリー・ヨミウリ」(現「ジャパン・ニューズ」)記者・編集者を経て、2002年に渡英。英国や欧州のメディア事情や政治、経済、社会現象を複数の媒体に寄稿。「新聞研究」(日本新聞協会)、「Galac」(放送批評懇談会)、「メディア展望』(新聞通信調査会)などにメディア評を連載。著書に『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス(新書)』(共著、洋泉社)、『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)。

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