改革が「働かせ方改革」に見えるのは「働き手の権利行使を支える支援」が見えないから
2016年09月27日
「働き方改革」が話題だ。8月の第3次安倍第2次改造内閣の発足に伴って、安倍晋三首相は「最大のチャレンジは働き方改革」として、同一労働同一賃金や長時間労働の是正などを掲げた。加藤勝信・一億総活躍相が兼務する「働き方改革相」、「働き方改革推進会議」も創設される力の入れようだ。
だが、これらに対し働き手の側からは、「働かせ方改革では」との冷めた論調も目立つ。それを意識したのか、首相は9月に入り、「働き手の目線での改革」を強調し始めている。
「働き方改革」を「働かせ方改革」にしないためには、何が必要なのか。
霞が関の労働行政のベテラン職員からは、「働き方改革」の背景にアベノミクスの行き詰まりがあるとの指摘も聞かれる。大規模な量的緩和や公共事業を繰り出したものの、働き手の実質賃金はなかなか上がらず、消費も盛り上がらない。企業の業績向上が働き手の賃金上昇に直結せず、これを結びつけるためには働き方の改善に目を向けるしかないという選択が出てきたというわけだ。
労働行政は、公共事業などと比べてカネがかからず、コストパフォーマンス面からも効率がいい。そうした事実にようやく目が向けられ始めたこと自体は、歓迎したい。
問題は中身だ。来年度の厚労省「働き方改革」予算の概査要求は、特別会計を含め計877億円に達したと報じられている。その大半は、非正社員の従来からあった「キャリアアップ助成金」の拡充に454億円、65歳以降の定年延長や継続雇用制度を導入する企業支援に26億円と、助成金だ。
「キャリアアップ助成金」の中には、企業が非正社員の基本給についての規定を2%以上増額する賃金規定をつくって昇給させた場合について、たとえば1人から3人の社員の中小企業に10万円、などが支給されるというものが含まれている。
今回は、この賃上げ率を3%以上増額した企業について、助成額を加算するというものだ。
また、今月に公表された今年度の第二次補正予算では、会社内で最低に位置する賃金を引き上げれば支給される「業務改善助成金」の拡充も盛り込まれている。
例えば、最低レベルの時給を30円引き上げ、「生産性向上のための設備投資等」にかかった費用を請求すると、最大で50万円が支給される。
対象となる社員は一人でも構わず、要件とされる「生産性向上のための設備資等」には「経営コンサルタント経費」も入るため、助成金を狙って営業に回り始める社労士も出ているという。
会社が社員を雇うのは、その社員の働きを通じて業績を上げるためだ。その業績向上による利益の分配を、労使交渉などを通じて増やしていくのが賃上げの常道だ。
賃上げしたら助成金、という方式では、この補助金がなくなったら賃下げへ規定を改定、となりかねず、瞬間風速の効果に終わらないか、と疑問がわく。それ以上に、社内に労組の監視の目が届かない場合、昇給がどこまで実施されるのかさえおぼつかない。
労組組織率が18%を切っているいま、「働き手の目線で」を目指すなら、働き手の交渉力を支える労働相談窓口や専門職員の拡充、地域労組の労働相談窓口を機能強化する補助金、寄付控除などの予算づくりが急務だ。
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