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「金メダル数で中国を抜いた」と歓喜する英国

日本は英国の取り組みから何を学ぶべきか

小林恭子 在英ジャーナリスト

「我らの輝かしい黄金の五輪」

サンデー・テレグラフ紙の「偉大な五輪」報道拡大サンデー・テレグラフ紙の「偉大な五輪」報道

 「中国を抜いた!」

 リオ五輪で、金メダルの獲得数で米国に次いで第2位となった英国では、スポーツ関係者、政府、メディア、国民の多くが歓喜に湧いた。ホスト国となった前回のロンドン五輪よりも獲得数が増えたことが大きな自慢だ。

 成功の理由は、「エリート・スポーツ」と言われる五輪競技の選手育成に大きく資金を投入したことだ。戦略的投資に力を入れる英国だが、その行き着く先には懸念もある。日本が学べることは何かを考えたい。

  8月5日から21日までの17日間、リオで開催された夏季五輪大会。最終結果が出る直前に発行された英日曜紙は、そのほとんどが英国代表チームの活躍を祝う紙面を作った。

 サンデー・テレグラフ紙は、金メダルを取得した選手数人の写真を1面に大きく載せ、見出しは「最高の五輪(=ゲーム)」(8月21日付)とした。右上にはメダルの獲得数と国別の内訳を示す表をつけた。金メダルの獲得数でランキングが決まるので、1位が米国、次が英国、3位が中国だ。総数では中国の方が上なのだが。

サンデー・タイムズの五輪報道拡大サンデー・タイムズの五輪報道

 サンデー・タイムズ紙は、メダルを得た複数の選手の笑顔をコラージュした写真の上に、「我らの輝かしい黄金の五輪」という見出しをつけた(同じく21日付)。2面以降も五輪特集が続き、最初の記事の見出しが「史上最高の五輪—いったいどうやって達成したのか」。自画自賛の分析記事となっている。

ランキングで中国を抜いたと報じるBBCの報道(BBCのサイトより)拡大ランキングで中国を抜いたと報じるBBCの報道(BBCのサイトより)

 リオ五輪の開催中、BBCは、英国がホスト国となった4年前のロンドン五輪での国民の熱狂を再現しようとするかのように、競技報道に力を入れた。主力のチャンネル「BBC1」の大部分を五輪関係の番組放送に集中させた他に、デジタル・チャンネル「BBC4」(午後7時より夜中まで放送)を完全に五輪専用とした。教養番組を放送するBBC4は、17日間、事実上消えてしまった。

 自国選手がメダルを獲得すると、その結果や選手の感涙場面などが何度も繰り返し報道された。24時間のニュース報道がネットサイトやテレビのニュース専門局を通じて展開する英国では、まさに「何度も、何度も」繰り返された。

 ガーディアン紙のコラムニスト、サイモン・ジェンキンス氏はBBCテレビのニュース番組の中で最も主力となる午後10時のニュースが、ある日五輪の結果を繰り返しながら、テロ扇動罪で有罪となった事件などを脇に追いやったことを嘆いた(8月18日付のコラム)。

目を引いたメダル獲得数の比較表

 今回の一連のメディア報道で目立ったのがメダル獲得数の比較表だった。国ごとのランキングがBBCニュースのサイトやガーディアン紙のウェブサイトで常時表示された。折れ線グラフにして数を追う「トラッキング」と称するインフォグラッフィクスも多用された。

 五輪のすべての競技が終わり、BBCが全体を総括する記事を出したが、見出しは「英国チーム(=「チームGB」)がメダル・ランキングで中国より上の第2位に」であった。スポーツ大国中国を自国が負かしたことが大きな自慢なのである。

 総数を見ると、米国が121個、中国が70個、英国が67個。しかし、金メダル数では米(46個)、英(27個)、中(26個)の順になる。

 そして、さらにこう続く。

 「近代オリンピックが1896年に開始されて以来、夏季五輪のホスト国となった後の次の五輪でメダル数を増やした国は存在しない」。ところが英国はホスト国であった時の総数65個よりもさらに多くのメダルを獲得した、というわけだ。事前に目標としていた48個をはるかに凌ぐ数字を達成したことで、リオ五輪は英国にとって、国外で開催された五輪の中で「最も成功した五輪になった」と言えるー。

 ちなみに、日本は総数が41個で金メダルの数は12個。国別ランキングでは6位となった。英国で「金メダル数で中国に勝った」、「ランキングでは2位だ」と盛り上がっている話は日本にはあまり伝わっていないだろう。

 英国が米国に次ぐほどの金メダルを獲得できたのには、理由があった。メダル獲得のために国家的な規模のリソースを割くことに決めたのである。

20年前に方向転換した英国

 1996年、米アトランタ大会で英国の選手が獲得したメダルは15個だった。金メダルは1個のみだ。巨額の国家予算を費やして戦うロシアや中国、そして米国のプロ並みの選手に歯が立たない状態だった。国別ランキングで英国は36位に甘んじた。

  翌年、政府による宝くじ組織が設置され(運営は民間のキャメロット社)、その資金がスポーツ選手の育成に導入されるようになった。2004年までに獲得メダル数は倍の30になり、2012年のロンドン五輪ではさらにそのまた倍を超える65個となった。

 ロンドン五輪以降、宝くじ組織から2億7400万ポンド(約372億円)が五輪選手向けに投入され、財務省もその半額ほどを助成金として拠出した。

 見込みのある競技に重点的に資金を投入することで、英国はメダル数を増やしていった。

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筆者

小林恭子

小林恭子(こばやし・ぎんこ) 在英ジャーナリスト

秋田県生まれ。1981年、成城大学文芸学部芸術学科卒業(映画専攻)。外資系金融機関勤務後、「デイリー・ヨミウリ」(現「ジャパン・ニューズ」)記者・編集者を経て、2002年に渡英。英国や欧州のメディア事情や政治、経済、社会現象を複数の媒体に寄稿。「新聞研究」(日本新聞協会)、「Galac」(放送批評懇談会)、「メディア展望』(新聞通信調査会)などにメディア評を連載。著書に『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス(新書)』(共著、洋泉社)、『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)。

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