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株式市場まで支配する日銀の罪深さ

持続可能な出口戦略をそろそろ模索する時だ

木代泰之 経済・科学ジャーナリスト

打つ手がどれもうまくいかない

 日銀の金融緩和が始まって3年半がたった。思えば、当初の期待とはずいぶん遠いところへ来てしまった。

 「2年で物価を2%上げる」と消費を煽(あお)ったが、国民は笛吹けど踊らず。輸出企業を喜ばせた円安も今や円高に戻り、経済はむしろデフレの気配だ。サプライズで劇薬のマイナス金利を導入したが、副作用のほうが目立ってきた。打つ手がどれもうまくいかない。

金融政策決定会合に臨む日本銀行の黒田東彦総裁=9月21日金融政策決定会合に臨む日本銀行の黒田東彦総裁=9月21日

 その陰で、日銀による金融市場の支配が強まっている。

 国債を買い占めて金利を低く(価格を高く)誘導する操作は、3年半前から実施中だ。株式市場でも、この8月からETF(株価指数に連動するように銘柄を構成した上場投資信託)の買い入れ額を、それまでの年3.3兆円から6兆円に倍増した。

 日経平均やTOPIXを下支えするのが目的で、日銀は2、3日に一度のペースできっちり737億円ずつETFを買っている。

 その結果、日経平均を構成する多くの企業で株価が上昇し、日銀が大株主になる企業が続出するという異常事態が起きている。

2017年末には55社で日銀が筆頭株主に

 投資情報会社のブルームバーグによると、今年8月には、日経平均の225銘柄のうち、75%の約150銘柄で日銀が上位10位以内の大株主になり、楽器のヤマハでは筆頭株主になった。このペースで行くと、2017年末までにセコムやカシオ計算機など55社で筆頭株主になるという。

 証券業界は「日銀銘柄」を選んで投資家の買いを誘っている。

 「ユニクロ」で知られるファーストリテイリング、半導体検査装置のアドバンテスト、電子部品のTDKなどが代表例で、7月下旬ごろから株価上昇が著しい。日銀が主導する官製相場に、証券会社や投資家が乗り遅れまいと追随している。

先進国で中央銀行が株式相場を支配する異様さ

 中には、業績が悪くて株価が下落して当然なのに上昇している銘柄もある。経営者は、事業再編やイノベーションを迫る株主の圧力が和らぐので日銀の介入を歓迎する。しかし、恒常化すれば将来の成長に向けた企業努力はおざなりになり、薬物中毒のように日銀依存から抜けられなくなるだろう。

 社会主義でも国家資本主義でもない先進国で、中央銀行が株式相場を支配している。

 最初はおっかなびっくりだった日銀も次第にのめり込み、その異様さを「異次元」「深掘り」という言葉で覆い隠すようになった。メディアも国民も疑問を感じなくなり、この国の市場感覚はすっかりおかしくなってしまった。

 そもそも日銀が紙幣を増刷して株価を支える理由はあるのだろうか。

 高い株価は、安倍政権が国民の信任を取り付けるための根幹であり、日銀が協力するのはわかる。しかし本来、株価を高めるのは企業の業績や将来性であって、「通貨の番人」である日銀の仕事ではない。欧米でこれほど大量の株の買う中央銀行はどこにもない。

 金融市場は、価格や金利を媒介にして、需要と供給のアンバランスを自ら調整するメカニズムを備えている。「見えざる手」と言われるその市場機能は今、他ならぬ日銀によって封じられている。

 この間、海外勢は日本株離れを進めてきた。今年1~9月は過去最大の約6兆円を売り越している。日銀が買い支えるのを利用してさっさと逃げているのだ。

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