「世界出版エキスポ2016」現地リポート
2016年11月03日
これまでの新聞界は、紙の新聞という一つの媒体を制作するために共同作業を行ってきた。ウェブサイトが登場すると、「紙の新聞」と「ウェブ」という二つのアウトプット先ができた。
今やそれだけでは十分ではない。様々な種類のソーシャルメディアで記事をどう発信するかも考える必要がある。マルチ・アウトプット時代の編集作業をいかに効率的に行うかが課題となってきた。
米ニューヨーク州ロングアイランドの日刊紙「ニューズ・デー」。同紙の編集幹部ジャック・ミルロッド氏は、エキスポ初日のセッションで「これでメールを何度も送らなくても良くなった」と繰り返した。昨年末に導入した、米アテックス社製の編集管理用ソフト(コンテンツ・マネジメント・システム=CMS)に言及した時だった。
同社の「Hermes」(エルメス)と呼ばれるCMSは、一つのコンテンツ(原稿、画像、動画など)を紙媒体、ウェブサイト、モバイルアプリ、ソーシャルメディアなど複数のチャンネルに出す作業をできうる限り効率化したという。
様々な素材が、システム上の「dm.desk」という地点に集められ、編集者がそれぞれのチャンネル用に加工していく。
記者も編集作業により深くかかわる。
原稿執筆の依頼を受けた後、「dm.desk」に直接原稿を送る。編集デスクがこれに手を入れ、直したものを記者が確認する流れとなるが、すでに「dm.desk」を通じて編集過程を共有しているので、デスクと書き手の間で、進行状況についてやり取りをする必要がなくなった、という。
「メールの介在なしに、編集が進んで行く。これほどスムーズなことはない」とミルロッド氏は話す。
エキスポの展示ブースの一つでは、ドイツのCMS企業「ゴーグル・パブリッシング」も、編集作業の効率化・共有化を説明していた。「メールのやり取りなしにコンテンツが製作できる、どこからでも直接印刷版を確認できる」が宣伝文句だ。
例えば、フリーランスも含めた書き手に対し、原稿依頼があったとしよう。
編集者・デスク側は、印刷版でその原稿が入る場所に直接、書き手に原稿を送ってもらうようにする。
すでにレイアウトが決まっているため、書き手は見出しや本文の長さが分かり、これに合わせて原稿を作る。
原稿が入ったら、編集デスクが手を入れる作業は同じなのだが、ニューズ・デイのように、編集過程を書き手と編集者が常時確認できる状態になっているので、その後メールで互いに確認しなくても良くなるという。
ブースにいた創業者の一人、マティアス・ムーラー氏が胸を張るのが、書き手(オーサー)の仕事を管理するシステム、通称「ARM(Author Relationship Management)」だ。
実際に同社のCMSを使っているオーストリアの新聞社グループ「リージョナルメディアン・オーストリア」のニュース・サイト「meinbezirk」を例にとって、説明してくれた。
ウェブサイト上の記事の横には、その記事を書いた女性の顔写真が載っていた。メールの連絡先やツイッターのアドレスも付いている。その記事を何人が読んだかの数字もあった。
書き手の名前をクリックすると、彼女の専用の画面になり、読者がどこから流れてその記事にたどり着いてきたのかがわかるグラフが映し出された。
どの書き手の記事が最もよく読まれたのかがわかるランキングの画面もあった。
ムーラー氏と画面をチェックした段階では、この書き手が最も多く読者を集めており、ソーシャルメディアからの流入率が最も高い書き手であったこともわかるようになっていた。
筆者は、流入元別に色分けされた棒グラフに感心しながらも、「ここまで細かく計測されてしまうものなのか」と若干衝撃も受けた。
しかし、自社のサイトで起きていることを「なんでも計測」する行為は、紙媒体でのジャーナリズムを実践してきた新聞メディアが、デジタル版から収入を生み出すためには欠かせない。
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