バーチャルな未来を救うのは血の通った生身アイドルの汗と握手
2016年11月07日
バーチャルリアリティー(VR=仮想現実)の映像が、エンタメやモノづくり、教育、医療、観光など様々な分野に広がってきた。「まるで現実のように作られた仮想映像の中に、ユーザー自身が飛び込んで体験する」のがVRである。
ソニーが10月に「プレイステーション(PS)VR」を発売し、売れ行きは好調だという。市場では米新興企業のオキュラス、zSpaceなどが地歩を固め、グーグルも近く乗り出す。台湾企業や中国企業も追っており、多様なハードとコンテンツの競争が激化しそうだ。
国内でもVRを体験できるショップや、IT関連イベントが増えてきた。
筆者が最近体験したのは、高層ビルの足場を歩く恐怖のVRだ。ヘッドマウントディスプレー(HMD)を顔に着け、足にはセンサーを装着する。
歩き出すとセンターが感知して動きをHMDに伝え、目の前の風景が上下左右に変化する。下をのぞくと車が小さく見え、足がすくんで身体がふらつく。おっと、誤って足場を踏みはずすと50m下に真っ逆さまだ。
これはエンタメではなく、電気設備会社の明電舎がVR専門の(株)積木製作に依頼し、社員の安全教育のために作成したコンテンツである。足場を安全に歩く感覚を鍛えるための訓練なのだ。
教育用では、次のhttps://www.youtube.com/watch?v=XyRLnD-4tkIを紹介しよう。
米zSpaceが2015年にYouTubeに公開したVRの映像だ。子供たちがVR専用の眼鏡とペンを使って人体の構造などを驚きながら学ぶ様子を伝えている。
製造業では、「モノを作らないモノづくり」に活用されている。
モノづくりはふつう試作品を作るが、設計データをもとにVRで映像化すれば、モノの姿を3次元で観察して問題点を発見することができる。試作品を作るのとは異なり、設計を何度でもその場でやり直せる。作業工数を減らし、開発期間を短縮できるのが利点だ。
医療分野では、タンパク質や医薬品を創薬するのに役立つ。
複雑な分子モデルを3次元コンピューターグラフィックス(CG)で描き出し、コンピューター上で薬の効果や副作用を確認することができる。いちいち化学合成して確かめる必要がなくなる。
また身体の複雑な部位(例えば気管支など)の映像を作り、手術に備えて内視鏡の入れ方を事前にトレーニングするという使い方もできる。
どの事例でも、仮想映像をCGでいかにリアルに作り、ユーザーの目や頭の動きをセンサーで精緻に追跡して時間差なく映像に投影できるかが決め手になる。ここ数年のセンサーや高速データ処理の目覚ましい進化がVRの背景にある。
VRに対し、数年前に話題になったのがAR(拡張現実、Augmented Reality)だ。こちらは「現実の映像の中にコンピューターで別の情報を追加し、現実世界を拡張したかのように表現する」というものだ。
ポケモンGOとか、スマホを夜空にかざすと、見えている星座を教えてくれるアプリとか、ナショナルジオグラフィックがYouTubeに2012年に公開した、ショッピングセンターに恐竜が現れるキャンペーン映像、
などがそれである。
これからはVR、AR、3次元CGが一体となって進化し、応用分野を産業全体に広げていくだろう。
ところで本稿では、VRが持つもう一つの「危うい」側面、すなわちゲームやバーチャルアイドルのコンテンツについても考察したい。いまインターネットにあふれているこれらのコンテンツが、VRによってさらに増殖・過激化しそうな勢いだからだ。
一例だが、現実の女性アイドルの体形データを3Dスキャナーで取り込み、CGでそっくりに再現したキャラクターのVRゲームが秘かな人気になっている。
舞台は常夏のビーチ。HMDを付けたユーザーが目の前の水着のアイドルに何事か頼んで首を縦に振ると、アイドルが「うん」とうなずく。生身の異性と付き合う負担感がないので、疑似恋愛にのめり込む若者が出てくる。
有料会員の方はログインページに進み、朝日新聞デジタルのIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞デジタルの言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください