開発者は日本人。高額のがん治療薬「オプジーボ」の呪縛を解くか
2016年12月09日
オバマ大統領が2012年2月に行った一般教書演説の一節を覚えている人はいるだろうか。「米政府の研究機関では様々なイノベーションが起きている」と述べ、その一番に「がん細胞に関する研究」を取り上げて世界に誇ったのである。
https://www.youtube.com/watch?v=nsXFHlxCW5g
それは、米国立がん研究所(NCI)の小林久隆・主任研究員=写真=が開発した「近赤外線免疫治療法」である。従来のがん治療の常識からするとまったく予想外の治療法で、人体に無害な近赤外線を照射してがん細胞を死滅させるというもの。後述するように、転移がんを含む多種類のがんに適用できる可能性があり、必要な設備や薬品は安価かつ安全な治療法だという。
一方、日本では今、小野薬品が開発した「オプジーボ」(写真)に代表されるがん治療薬のあまりの高額ぶりが問題になっている。
新薬の開発にはふつう数百億円の費用と10数年の年月がかかり、失敗するリスクも高い。それを回収しようと思えば、薬価は当然高くなり、それをみんなが使えば医療保険財政を圧迫する。
オプジーボの場合、100mg(写真の1ビン)が73万円で、患者1人に年間約3500万円かかる。適用対象の悪性黒色腫などのがん患者約5万人が使えば、費用は1兆7500億円(国家予算全額の2%)にもなる。政府はオプジーボの薬価を来年2月から特例で50%値下げすることを決めた。
しかし、製薬企業は「新薬から十分な収益が得られないなら、次の開発投資は困難になる」(塩野義製薬)と反発している。
高額医薬品は今後も次々登場し、オプジーボと同じ論争が繰り返されるだろう。患者救済を優先するのか、保険財政を守るのか。将来の新薬開発はどう維持するのか――日本のがん治療薬をめぐる議論は出口のない隘路(あいろ)に入り込んでいる。
ところで、小林氏の「近赤外線免疫治療法」はオバマ演説のあと、どのように進展したのだろうか。
筆者は先日、米国にいる小林氏に国際電話で最新の状況を聞く機会があった。それによると、NCIやNIH(米国立衛生研究所)のサポートの下に臨床試験は順調に進み、小林氏は「2,3年後の実用化も視野に入ってきた」という明るい見通しだった。
この新しい治療法は、がん細胞だけに特異的に結合する抗体を利用する。その抗体に、近赤外線で化学反応を起こす色素(IR700)を付け、静脈注射で体内に入れる。抗体はがん細胞と結合するので、そこに近赤外線の光を照射すると、IR700が化学反応を起こして発熱し、がん細胞を破壊するという。
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