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[2]すべてが「トランプ・テレビ」になった

メディアは今後、独立した報道や論評を貫けるだろうか?

小林恭子 在英ジャーナリスト

 コペンハーゲンで開催されたテレビニュースの国際会議「News Xchange」(主催は欧州放送連合=EBU=傘下のユーロビジョン)は、欧州を中心としたテレビ業界のジャーナリズムを議論する場として、欧州域内の各都市で毎年開かれてきた。前回に続き、ジャーナリズムの現在と未来について交わされた活発な議論の一部を紹介したい。(在英ジャーナリスト、小林恭子)

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「トランプ現象」を作ったのは誰か?

News Xchange会議はコペンハーゲンで開催された(News Xchange撮影)拡大News Xchange会議はコペンハーゲンで開催された(News Xchange撮影)

 米大統領選での数々の暴言で知られるドナルド・トランプ共和党候補が当選し、激震が広がっている。最終的にはヒラリー・クリントン民主党候補が勝つと予測した専門家、世論調査、メディアの予想は大きく外れた。メディアは現実を正しく理解し、市民のために有益な情報を流せていたのだろうか?

 News Xchange会議初日午後のセッション「トランプ現象」でのやり取りを見てみたい。

 「すべてがトランプ・テレビになった」

 モデレーターとなったのは、ユーロビジョン米国支部のビル・ダンロップ氏だ。動画を使って、大統領選を振り返った。

 ビジネスマンで富豪のトランプ氏が大統領選への立候補を表明したのは2015年6月だ。その様子は実況中継された。当初は懐疑心を持って見ていたメディアは、トランプ氏の一挙一動を互いに競い合いながら報道していくーー。

「トランプ氏は米国にとっては良くないが、CBSにとっては非常に良い」

米大統領選を振り返る動画 「トランプ現象」のセッションから(News Xchange撮影)拡大米大統領選を振り返る動画 「トランプ現象」のセッションから(News Xchange撮影)

 身体障害者、移民、イスラム教徒への暴言に加え、女性蔑視の発言も多いトランプ氏だが、トランプ氏が出れば視聴率が上がった。米CBSのレス・ムーンベス会長が「トランプ氏(の立候補は)米国にとっては良くない。しかし、CBSにとっては(視聴率が上がり、収入も上がるので)非常に良い」と発言した。

 ケーブルテレビにも、ネットワークテレビにもトランプ氏が連日登場し、その露出度は他の候補者を大きく引き離すようになった。

 数々の暴言によって「こんな人が大統領になっては困る」という危機感が生まれたが、トランプ支持者は減らなかった。しかし今年10月上旬、トランプ氏がかつて「どんな女性もモノにできる」と発言していたことが発覚する。一部の発言は「ポルノ的」とも評され、犠牲者と称する女性たちがメディアに出るようになると、CNNが「トランプ氏はこれで終わった」と述べる一幕があった。

 選挙戦終盤の10月末、今度はクリントン陣営が打撃を受ける動きがあった。クリントン氏が国務長官時代に機密情報を含む公務メールを私用サーバーで使っていた問題で、米連邦捜査局(FBI)のジェームズ・コーミー長官が捜査に関連するかもしれない新たなメールを調べていると議会に通達したのである。女性蔑視問題で支持率が落ちていたトランプ氏は支持率を回復する。

 コーミー長官が「新たに調べたメールには違法性がなく、訴追に相当しない」と通達したのは11月6日。投票日の2日前である。8日が投票日となり、翌日にはトランプ氏の当選が判明した。最終的にクリントン氏有利としていた専門家やメディアの見立ては大きく外れたーー。

 動画が終了し、ユーロビジョンのダンロップ氏がパネリスト達に問いかける。

 「トランプ氏の当選はメディアによって作られた、といってもいいのだろうか?」

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筆者

小林恭子

小林恭子(こばやし・ぎんこ) 在英ジャーナリスト

秋田県生まれ。1981年、成城大学文芸学部芸術学科卒業(映画専攻)。外資系金融機関勤務後、「デイリー・ヨミウリ」(現「ジャパン・ニューズ」)記者・編集者を経て、2002年に渡英。英国や欧州のメディア事情や政治、経済、社会現象を複数の媒体に寄稿。「新聞研究」(日本新聞協会)、「Galac」(放送批評懇談会)、「メディア展望』(新聞通信調査会)などにメディア評を連載。著書に『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス(新書)』(共著、洋泉社)、『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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