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[1]フェイスブックと闘ったノルウェーの新聞

フェイスブックとニュースメディアの衝突は来年も続くだろう

小林恭子 在英ジャーナリスト

  コペンハーゲンで開催されたテレビニュースの国際会議「News Xchange」(主催は欧州放送連合=EBU=傘下のユーロビジョン)は、欧州を中心としたテレビ業界のジャーナリズムを議論する場として、欧州域内の各都市で毎年開かれてきた。ジャーナリズムの現在と未来について活発な議論が交わされた内容を2回に分けて紹介したい。(在英ジャーナリスト、小林恭子)

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 米ソーシャルメディア「フェイスブック」は、ネット上で人と人つなぐプラットフォームだが、投稿にはコミュニティーの規定に従う必要がある。その規定に「違反」したため、著名な報道写真を削除された件を問題視したノルウェーの新聞社が、フェイスブックに挑戦を挑んだ。

 News Xchange会議で2日目の午後に開催されたセッションには、「フェイスブックの時代に編集のコントロールをいかに保証し、維持するか」というタイトルがついた。

 長い題名だが、要は、フェイスブックとノルウェーの新聞「アフテンポステン」紙との闘いを例にして、ニュースメディアがフェイスブックとどうつき合うかを考えるためのセッションだった。

フェイスブックはベトナム人少女の裸の写真を削除した

アフテンポステン紙のフェイスブックサイトに掲載された、「戦争の恐怖」の写真をめぐる記事リンク(ウェブサイトより)拡大アフテンポステン紙のフェイスブックサイトに掲載された、「戦争の恐怖」の写真をめぐる記事リンク(ウェブサイトより)

 最初に登場したのは、ノルウェーの日刊高級紙であるアフテンポステン紙のエスペン・エギル・ハンセン編集長だ。フェイスブックと同紙による、政治家をも巻き込んだ事件の一部始終を話し出す。

 発端は今年8月。ノルウェーのジャーナリスト、トム・エーゲラン氏が、戦争に対する見方を変えた8枚の写真をフェイスブックに投稿した。そのうちの1枚が「戦争の恐怖」と題された、1972年にAP通信のベトナム人カメラマン、ニック・ウット氏が撮影した写真だった。

 写真は、南ベトナム軍の空軍機がナパーム弾を投下した村で逃げ惑う村人たちの様子を捉えていたが、最も印象的なのは裸で逃げる少女キム・フックの姿だ。この写真は1973年、ニュース速報写真部門でピュリツァー賞を受賞している。ベトナム戦争の悲惨さを捉えた映像として、最も著名な報道写真の1つだ。

 フェイスブック側は、少女が裸であることを問題視し、この写真を削除した。これにエーゲラン氏が抗議したところ、アカウント自体を一時的に閉鎖されてしまった、

 9月5日、アフテンポステン紙はこの騒動を記事化し、フェイスブックにリンクを投稿した。「戦争の恐怖」の写真も掲載した。

 間もなくして、フェイスブックのオフィスから写真の削除を要請するメールが届き、メール受信から24時間足らずで実際に関連記事と写真は削除されてしまった。

ザッカーバーグ会長に向けて抗議行動を起こす

アフテンポステンのハンセン編集長(舞台中央、News Xchange撮影)拡大アフテンポステンのハンセン編集長(舞台中央、News Xchange撮影)

 怒り心頭となったハンセン編集長は、フェイスブックのマーク・ザッカーバーグ会長兼CEOに向けて、抗議運動を起こすことにした。8日夜には電子版で、印刷版では9日付の1面にザッカーバーグ氏宛ての手紙を載せ、中面では数ページにわたる特集を作った。

 「親愛なるマーク、この写真を削除しなさいという要求には応じません」、「私たちの民主主義の頼みの綱となる部分にあなたがやろうとしていることに怒り、失望し、恐れてもいます」

 英ガーディアン紙やドイツのシュピーゲル誌が、アフテンポステンを支援する記事を掲載し、世界的に大きなニュースとなってゆく。

 9日、米CNNが編集長をインタビュー取材することになった。スタジオで待機している間に、ノルウェーのエルナ・ソルベルグ首相もフェイスブックにこの写真を投稿したことを知った。しかし、この投稿写真も数時間後には削除されてしまう。首相は、フェイスブックの措置は「私たちが共有する歴史の編集だ」と批判した。

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筆者

小林恭子

小林恭子(こばやし・ぎんこ) 在英ジャーナリスト

秋田県生まれ。1981年、成城大学文芸学部芸術学科卒業(映画専攻)。外資系金融機関勤務後、「デイリー・ヨミウリ」(現「ジャパン・ニューズ」)記者・編集者を経て、2002年に渡英。英国や欧州のメディア事情や政治、経済、社会現象を複数の媒体に寄稿。「新聞研究」(日本新聞協会)、「Galac」(放送批評懇談会)、「メディア展望』(新聞通信調査会)などにメディア評を連載。著書に『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス(新書)』(共著、洋泉社)、『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)。

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