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[2]オバマ広島訪問の内幕ーその理想と現実主義

真珠湾と広島の事前秘密交渉 「何が何でも広島に行く」と大統領は連関を断った

尾形聡彦 朝日新聞機動特派員


 オバマ外交の導師(グル)と呼ばれるベン・ローズ米大統領副補佐官(国家安全保障担当)は、8年間のオバマ政権で、重要な外交政策すべてにかかわってきた。今年5月のオバマ大統領の広島訪問に際しては、オバマの意向を受けて広島行きの重要性を政権内部で説き、異論をおさえてホワイトハウス内をまとめた。そして、スピーチライターとして、オバマと二人三脚で広島の平和記念公園での演説を作り上げた。

 連載第2回は、オバマ大統領の広島訪問の決断の理由と背景を、ローズに聞く。

理想主義、現実主義、合理主義、未来志向の思い……

2011年11月、仏カンヌで開かれた主要20カ国・地域(G20)首脳会議(サミット)の際の記者会見で語るベン・ローズ氏=尾形聡彦撮影拡大2011年11月、仏カンヌで開かれた主要20カ国・地域(G20)首脳会議(サミット)の際の記者会見で語るベン・ローズ氏=尾形聡彦撮影

 オバマの側近中の側近であるローズとの会話を通じて伝わってきたのは、大統領の広島訪問は、「安倍首相の戦後70年談話」や「慰安婦問題での歴史的な日韓合意」などで日本に困難な歴史に向き合うように米国が強いてきたことを踏まえ、米国自身も歴史に向き合う姿勢を示す態度表明だったということだ。

 実は、「首相の真珠湾訪問」と「大統領の広島訪問」はセットでここ数年、日米両国間で秘密裏に交渉されてきたことだった。しかし、オバマは最後にその連関を断ち、広島訪問を決断していた。

 そこには、広島訪問は「正しい行い(right thing to do)」だという「理想主義」、アジアで歴史に向き合う姿勢を見せて同盟国間の緊張を和らげることが米国の安全保障にも資するという「現実主義と合理主義」、そして、2009年のプラハ演説で発した「核なき世界」を目指す訴えの続きを、核軍縮の象徴的な場所である広島の地で改めて世界に向けた発信したいという「未来志向」の思いがあったことが、ローズの言葉から見えてきた。何より、ホワイトハウス内には、「何がなんでも広島に行くのだ、ということを明確にしたい」という強い思いがあったのだという。

大統領就任時から広島行きに強い意欲を持っていた

 私がオバマ政権高官から「大統領は広島訪問を真剣に検討している」と聞いたのは今年2月のことだった。当時は日本国内でそんな期待はほぼゼロだったと言っていいころだ。大統領選の年に、米国内の政治的なリスクが大きい決断になるだけに、私も当初は驚き、半信半疑の思いだった。ただ、同時に高官から聞いた広島訪問を検討する理由に、具体性を感じとり、オバマ政権は本気なのだと思い始めた。

 高官が語った理由とは、「オバマ政権は、日本に対し、困難な歴史に向き合うように強いてきた。だから、今度は自分たちが、自らの歴史に向き合う番だ」というものだった。

 オバマの広島訪問計画の中心にいたローズに、実際のところどうだったのかを聞いてみたいと思っていた。

尾形  「私は今年2月、まだ広島訪問が本格検討され始めたばかりのころに、米高官から聞いた言葉が印象に残っています。『我々は日本政府に、困難な過去に向き合うことを強いた。今回は我々が困難な過去に向き合う番だ』と。大統領の広島訪問の背後には実際、そうした考えがあったのでしょうか」

ローズ  「私たちは、日本にメッセージを送りたいと考えていました。広島は非常に特別な歴史を持った大きな町です。ですが、私たちが政権に就いたときには、それまで駐日米大使が平和記念式典に出席したことは一度もなかった。だからこそ、私たちは政権運営を進めていくなかで、米国人たちにとって、原爆の犠牲者を追悼することが普通に感じられるように努めてきました。最初は米大使が訪れ、次にケリー国務長官が行き、そして大統領が訪問する、ということを通じてです」

 オバマが政権に就いたのは8年前の2009年1月のことだ。ローズが語ったのは、同年8月に就任したルース駐日米大使を、10年8月の広島での平和記念式典に初めて派遣したのは、大統領の広島訪問に向けた周到な地ならしだったというホワイトハウスの認識だ。オバマが2009年の就任時から広島訪問に強い意欲を持っており、その実現のために、7年半かけて着々と準備してきたことがうかがえる。そしてローズはこう続けた。

核廃絶運動のなかで広島がいかに中心的な場所か

2011年11月、仏カンヌで開かれた主要20カ国・地域(G20)首脳会議(サミット)の際の記者会見で語るベン・ローズ氏=尾形聡彦撮影拡大2011年11月、仏カンヌで開かれた主要20カ国・地域(G20)首脳会議(サミット)の際の記者会見で語るベン・ローズ氏=尾形聡彦撮影

ローズ 「オバマ大統領にとっては2番目の理由がありました。それは核軍縮に向けた彼の決意であり、その世界的な運動のなかで広島がいかに中心的な場所であるか、ということでした。過去を認識するだけでなくそれを超えて、広島を訪問するということは、核兵器についてのメッセージを送るという意味がありました」

 オバマは就任した09年4月、チェコの首都プラハでの演説で「核なき世界」を目指す考えを表明している。「核なき世界」を掲げた大統領は、核廃絶運動にとって象徴的な場である広島を訪れることを通じて、世界に向けて核軍縮の重要性を訴える狙いがあった。ローズはそのうえで、歴史に向き合う重要性へと言葉をつないだ。

ローズ 「そしてたしかに、私たちは、日本側に困難な歴史を認識する努力をするよう促してきました。その点で、慰安婦問題をめぐる韓国との合意を私たちは歓迎しています。こうした歴史的な問題はどれも難しく、それぞれが異なったものです。ただ、共通するのは、歴史を率直に見つめ、同時に歴史に過度に制約を受けずにいることができるとき、国々はより和解を進めることができ、より協力し合えるようになるということです」

日韓合意で大統領が果たした役割

官邸で取材に応じる安倍晋三首相=2015年12月、東京・永田町拡大官邸で取材に応じる安倍晋三首相=2015年12月、東京・永田町

 ローズは、ホワイトハウスが安倍政権に対し、歴史に向き合うように求めてきたことに言及し、その成果として、昨年末の慰安婦問題での日韓合意を高く評価する考えを語った。
そこで、オバマ大統領が日韓合意でどのような役割を果たしたのかを率直に質(ただ)した。

尾形 「慰安婦問題についての日韓協議をめぐって、歴史的な合意に達するよう、オバマ大統領は安倍首相に直接働きかけたのですか?」

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筆者

尾形聡彦

尾形聡彦(おがた・としひこ) 朝日新聞機動特派員

1969年生まれ。慶応大学卒。1993年に朝日新聞入社。米スタンフォード大客員研究員をへて、2002年から米サンノゼ特派員としてグーグルやマイクロソフトなど米IT企業を取材。08年にロンドン特派員、09年から12年までは米ワシントン特派員としてホワイトハウスや米財務省、IMF、世界銀行を取材した。日本の財務省・政策キャップ、経済部デスク、国際報道部デスクを経て、15年5月から現職。
Twitter : @ToshihikoOgata

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