地方大学を悩ます数値目標。地元就職を希望しない若者まで地域に縛ってもいい?
2017年01月23日
人口の東京一極集中が止まらず、若い世代を中心に毎年7~8万人の転入超過になっている。その流れを止めようと、文部科学省は2年前から、地方大学の卒業生を地元に就職させる「大学COC(Center of Community)プラス事業」を展開している。
参加大学は地域貢献のリーダーになるよう期待され、非公表だが、一律に「地元就職率10%(ポイント)アップ」の数値目標を課されている。これまで「グローバル人材の育成」一色だった行政の方向転換に、大学からは戸惑いや批判の声が聞かれる。
東京への人口流入の突出ぶりはグラフ(下)を見れば一目瞭然。2014年度の転入超過は7万3千人で、うち女性が55%を占める。とりわけ子供を産む年齢層(20~39歳)の大学・院卒など高学歴の女性が多い。その結果、多くの県は逆に深刻な少子化と産業の衰退に直面している。
COCプラスには、東京、大阪、愛知を除く全国の国公立大学86校を中心に、私立大学、短期大学、高等専門学校の計256校が参加している。それを各自治体や地元経済団体が支援するという大がかりなプロジェクトである。
予算は年間約40億円で、大学側が参加を申し込む。財政が苦しい地方大学にとっては大助かりな話なのだが、その見返りが「地元就職率10%アップ」で、今の1年生が卒業する4年後までに目標を実現しなくてはならない。
このため各大学は、教員が学生を直接説得する、地元企業との交流を増やす、地元を題材にした「白書」を学生に書かせる、農作業を体験するなど、学生の関心を高める努力をしている。
このプロジェクトはうまくいくのだろうか。
そもそも東京一極集中は、1990年代以降のメガバンク再編や、情報サービス産業の発展をきっかけに加速した。本社機能が東京に集まり、その集積効果が一層の集中を促し、小売業やエンタメ産業も集まる。だから若者は仕事を求めて東京に行きたがるのだ。
例えば、県内2大学がCOCプラスに参加する鳥取県の場合、2010年の大卒の地元就職率は28%だったが、13年には23%に、5%(ポイント)ダウンした。公務員や教職員を除くと、地元にこれといった就職先が少ないことが響いている。これを逆方向に33%まで上げようというのだから、容易ではない。他の多くの県も程度の差こそあれ、似たような事情にある。
ちなみに歴史を言えば、江戸幕府も明治政府も人口一極集中には散々手を焼いた。詳しくは拙稿「地方創生で300年来の難問は解決できるか」《下記URL》を参照されたい。
https://webronza.asahi.com/business/articles/2015012500007.html
こうした巨大な人口移動の潮流を食い止める重責を、地方大学は自ら希望したとはいえ、一身に背負っている。筆者は参加大学4校の関係者から匿名で意見を聞いたが、どこも数値目標の達成には悲観的だった。その率直な声を以下に紹介しよう。
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