メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

news letter
RSS

トランプ氏は大統領令を乱発して猛進し続ける

「説明すればわかってもらえる」はナイーブすぎる。日本は安保と経済の負担増に備えよ

尾形聡彦 朝日新聞機動特派員

トランプ氏の考えが具体的な政策になり始めた

大手自動車メーカー首脳らと会談するトランプ大統領(中央)。左はゼネラル・モーターズ(GM)のメアリー・バーラ最高経営責任者(CEO)=ロイター 拡大大手自動車メーカー首脳らと会談するトランプ大統領(中央)。左はゼネラル・モーターズ(GM)のメアリー・バーラ最高経営責任者(CEO)=ロイター

 1月20日、ドナルド・トランプ氏が第45代米国大統領に就任した。就任前に約束した通り、23日には、環太平洋経済連携協定(TPP)から「永久に離脱する」大統領令を出した。25日には、メキシコとの国境で壁の建設への着手を命じた。

 トランプ氏が11月初旬に当選した当時は、「大統領になれば、現実的になる」という願望にも似た期待が日本政府の高官の間には強かった。しかし、いまはっきりしてきたのは、トランプ氏は、選挙戦中からの主張や姿勢をまったく変えておらず、そうした彼の考えが、米国政府という巨大な官僚機構をバックに、具体的な政策になり始めたということだ。

 選挙戦中、トランプ氏の「壁建設」や「イスラム教徒の一時入国禁止」といった政策は荒唐無稽だと思われていた。しかし、そうした主張の大きな基本的方向が維持され、それが現実の施策として動き出している。

 トランプ氏が現在使っている大統領令は、オバマ大統領も多用していた手法だ。大統領令は、裁判所が違法だと認めるまでは効力を持つことが多いだけに、非常に乱暴に見える大統領令でもしばらくは効力を持つ可能性がある。また、大統領令をいくら出しても、議会が予算をつけなければ、通常は政策は実行できない面もあり、議会とどのような関係を築くかも、ポイントにはなる。

 ただいずれにしても、トランプ氏が大統領令を乱発し、猛進する状況はしばらく続きそうだ。

トランプ政権は日本にとってどんな意味を持つか

 トランプ氏は、日本への関心がひときわ高い。

 暴言と思われていた政策を実行に移し始めたトランプ政権は、日本にとってどんな意味を持つのだろうか。

 トランプ氏の選挙戦中の発言から考えれば、新大統領は、日米安保についても、日本との経済関係についても、ルールを米国にとって有利な方向へと変更しようとするものと思われる。それは日本にとって、安保でも、日本経済全体や個々の日本企業にとっても、負担増を意味することになりそうだ。トランプ氏の選挙戦中の発言や最近の発言をもとにしながら、今後の日米関係の方向性を考えたい。

 また、日本国内には、「トランプ氏は、日本の自動車の対米輸出が減り現地生産が増えていることや、日本の国内市場では輸入車の関税がゼロであることがわかっていない。誤解を早めに解いたほうがいい」、「トランプ氏は、在日米軍の駐留経費を日本がかなり負担していることをについてきちんと理解していないので、きちんとわかってもらえば言いぶりも変わるはず」といった分析が多い。

 ただ、私はそれは誤りだと感じる。

 トランプ氏のバックにはいまや米国政府があり、新大統領は11月以来、詳細なブリーフを受けている。そのうえで、トランプ氏は意図的にこれまで同様の言い方を繰り返しているとみるのが合理的で、「実情を理解してもらえば、トランプ氏は考えを変える」というのは希望的かつナイーブな観測だと感じる。本稿ではそうした点についても触れたい。

世界を揺るがす夜のツイート

 「明日は国家安全保障にとって大きな日になる予定だ。なによりも、壁をつくる!」

 トランプ氏は米東部時間の24日夜、こうツイートし、25日にメキシコ国境との間の壁建設に着手する考えを明らかにした。そして25日昼すぎ、国土安全保障省を訪れ、「米国は国境管理を取り戻す」と演説し、壁建設着手を命じる大統領令に署名した。

 こうしたトランプ氏の行動の方向性は、大統領就任前の今月11日の会見から鮮明だった。

 記者会見でトランプ氏が言及した主な政策は、「メキシコとの国境での壁建設」、「工場を外国に移す米企業に対する負担増」、「オバマケア(米医療保険制度改革)の廃止」、「ロシアとの関係改善」だ。このうち、「壁建設」と「オバマケア廃止に向けた動き」は就任から一週間以内に着手することになる。

 もともとこうした政策は、選挙戦中にトランプ氏が主張していた話だ。ただ、当時はそうした主張の多くは単なるアピールの色彩が強く、仮に当選すれば、トランプ氏は現実路線に転換するという願望的な期待感を語る人たちが、日本政府内には多かった。

 しかし、トランプ氏の11日の会見や20日に大統領に就任した後の言動が示すのは、選挙戦中にトランプ氏が主張した政策は、当選後の政権移行チーム内で十分に検討され、それが実際の施策として打ち出され始めたという現実だ。

注目すべき1月11日の記者会見

TPP離脱の大統領令に署名したトランプ新大統領=ロイター拡大TPP離脱の大統領令に署名したトランプ新大統領=ロイター

 トランプ氏の今後の具体的な方向性を占ううえで、私が興味深く感じたのは、トランプ氏が約半年ぶりに開いた11日の記者会見の際の記者とのやりとりだった。事前に準備された就任演説や就任後の演説と違い、記者の質問を受けて即興で答えるトランプ氏の言葉には本人の本音が凝縮されていた。

 記者:「(メキシコとの)国境に築くフェンスですが、最初は、米国民の税金で前金で建設費を払わないといけないようですが」

 トランプ氏:「フェンスではない。壁だ。我々は壁をつくる。メキシコとの交渉を終えるまで1年半は待てる。交渉は我々が就任したらすぐに始める。でも、私は待ちたくはない。マイク・ペンス(副大統領)が取り組みを主導し、さまざまな機関からの許可や米議会の承認をとり、壁の建設をスタートさせる」

 「私は、1年や1年半も待ちたくない気分だ。我々は壁の建設を始める。メキシコは何らかの形で、それにはいろいろな異なる手法があるが、我々に費用を払い戻すことになる。彼らは我々に壁の建設費用を払い戻すのだ。それは実現する、税金の形をとるのか、支払いの形をとるのか、どちらにせよ。おそらくは、(メキシコからの)支払いという形になる可能性は、高くはないだろう。しかし、それは実現する」

 この質疑で明らかになったのは、大統領選中の彼のスローガンだった主張が、具体的な政策へと姿を変えていく現実味だった。不法移民を防ぐためにメキシコとの国境の間に壁を築く、「Build a wall (壁をつくれ)」というのは一種のスローガンだった。トランプ氏は当選後、一時は、「一部はフェンスになる」、という可能性にも言及し、態度を軟化させていた。しかし、11日の会見では「フェンスではなく、壁」と言い切って元の主張へと先祖返りし、25日には実際の壁建設への着手を大統領令で命じた。

壁を作る費用は誰が負担するか

 壁建設を進めるなかで最大の課題になっているのは、〝壁建設の費用負担をどうするのか〟という点だ。トランプ氏が「メキシコに払わせる」と言い、メキシコ側は「支払わない」とはっきり断っているなかでいったいどこに着地するのかはまだ見通せない。

 ただ、費用負担をめぐって注目されるのは、11日の会見で、トランプ氏が、メキシコからの「税金」によって払い戻させること、に言及している点だ。メキシコが支払いに応じないことを見越したうえで、メキシコ側やメキシコ人に何らかの「税金」という負担をさせることを示唆する一種の合理性が興味深い。

 「払え」「払わない」という押し問答を延々と続けるつもりはなく、支払わないのなら、税金という形で強制的に徴収する、という姿勢がみてとれる。実際、スパイサー大統領報道官は26日、「我々が貿易赤字を抱える国々からの輸入品に課税する、例えばメキシコのように When you look at the plan that’s taking shape now, using comprehensive tax reform as a means to tax imports from countries that we have a trade deficit from, like mexico.」と語り、壁の建設費用を輸入品への課税でまかなう考えを示した。米国内での批判の高まりを受け、スパイサー報道官はその後、「一つの考え」とプランをやや後退させたが、トランプ氏が会見で説明したように「税金で払わせる」という考えが中心にあることは変わっていないようだ。

 米国から外国に拠点を移す米国企業に、負担増を強いる、という選挙戦中からの姿勢についても同様だ。

 トランプ氏は11日の会見で、「国境税(border tax)」という考えに言及。政権の最初の公式ミーティングとして、企業幹部らと23日の会合の際にも、トランプ大統領は(米国から外国へ拠点を移す企業に対しては)「我々は、その製品が米国内に入ってくる際に、大きな国境税を課す(We are going to be imposing a very major border tax on the products when it comes in)」と明言した。

日本に対する要求の中身はあいまい

トランプ大統領に対する抗議デモ行進で埋め尽くされたホワイトハウス近辺の路上=ランハム裕子撮影拡大トランプ大統領に対する抗議デモ行進で埋め尽くされたホワイトハウス近辺の路上=ランハム裕子撮影

 一方で、最近のトランプ氏は、こうしたメキシコとの国境につくる壁についての言及は多いが、日本については、言及はあるものの具体的な政策や要求の中身についてはあいまいだ。

 トランプ氏は11日の会見で、日本について、<日本などとの貿易不均衡を是正する>と、<オバマ政権時以上に日本は米国により敬意を払うようになる>という趣旨の言及をした。そして、大統領就任後の23日の会合では
「我々は日本に車を売っているが、彼らは(我々が)日本で車を売ることを不可能にするようなことをしている。しかし、彼らは米国に車を売っていて、それも、数十万台を、いままで見たことのないような大きな船に積み、(米国に)やってきている。この件を話し合わないといけない。不公平だ」と語った。

 11日、23日の発言ともに、<米国は、日本との貿易で不利な条件をのまされているので、それを改善する>という大きな方向性だけで、具体的に何を要求してくるのかはわかりにくい。

対日政策の具体像を考えると……

 大統領就任後のトランプ氏の対日政策の具体像が見通せないなかで、日本への影響の方向性をどう考えれば良いのだろうか。トランプ氏が「壁建設」など他の重要政策で選挙戦時の主張を維持していることを考えれば、同氏が選挙戦中に繰り返した日本についての言及を検証するのが効果的だろう。

 まず日米安保について、トランプ氏は大統領選中にこう語っている。

 「もし日本が攻撃されれば、米国の軍事力を行使しなければならない。だが、我々が攻撃を受けても、日本は家でソニーのテレビを見ている」

 「(同盟国として)応分の負担をしなければ、日本を守ることはできない」

 「(日米安保条約は)フェア(公正)な取引ではない」

 「(北朝鮮による)核の脅威があるのなら、(日本の核保有は)米国にとって悪いことだとは限らない」

 トランプ氏の主張は一言で言えば、日米安保を維持するためには、日本側はさまざまな負担を増やすべきだ、というものだ。トランプ氏は、昨年3月のニューヨーク・タイムズ紙のインタビューで、「日本や韓国が駐留経費負担を大幅に増やさないのなら、米軍を撤退させるのか」と質問され、こう答えている。

 「そうだ。喜んでそうするわけではないが、しかし、進んでそうした措置をとるだろう。 Yes, I would. I would not do so happily, but I would be willing to do it」

 安倍首相とトランプ氏との間の首脳会談は2月10日ごろの開催で調整されているという。そうした場を通じて、日本側に対し、米軍の駐留経費の負担増を求める声が出てくる可能性がある。

・・・ログインして読む
(残り:約4677文字/本文:約9459文字)

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

尾形聡彦

尾形聡彦(おがた・としひこ) 朝日新聞機動特派員

1969年生まれ。慶応大学卒。1993年に朝日新聞入社。米スタンフォード大客員研究員をへて、2002年から米サンノゼ特派員としてグーグルやマイクロソフトなど米IT企業を取材。08年にロンドン特派員、09年から12年までは米ワシントン特派員としてホワイトハウスや米財務省、IMF、世界銀行を取材した。日本の財務省・政策キャップ、経済部デスク、国際報道部デスクを経て、15年5月から現職。
Twitter : @ToshihikoOgata

尾形聡彦の記事

もっと見る