「過労死促進改革」にならないよう、今後の関係会議の動きを監視していく必要がある。
2017年02月07日
政府が残業時間に初めて罰則付きの上限規制を導入する案を示し、2月1日から「働き方実現会議」で検討が始まった。電通過労自殺事件などで、労働時間の規制強化を求める声が高まる中、これを前進と評価する声もある。だが、これで本当に過労死は減るのか。今後のよりよい改正論議へ向け、その問題点を考えてみよう。
これまでの日本の残業時間は、事実上、青天井といわれてきた。労働基準法では週40時間、1日8時間という労働時間が決められている。だが、同法36条で、過半数を組織する労組、または過半数の社員の代表と協定(36協定)を結んで労基署に提出すれば、厚労省の指導基準である週15時間、月45時間、年に360時間までは残業が認められ、業務が忙しい時期であることなどを理由に特別条項を付ければ、これらの規制も超えて働かせることができるからだ。
人間の生命にかかわる基準が、個別企業の労使間で決められてしまうことに対し批判が盛り上がり、今回の案では、どの企業にも年間720時間(月平均60時間)、業務が忙しい時期は1か月最大100時間、前後の月との2カ月間の平均で80時間を超えたときに罰則を課す政府案が示された。
労働時間に罰則付き上限の枠がはめられたことは、一見、前進のように見える。だが、わが身に引き付けて考えてみると、この基準はかなり怖い。
厚労省の目安では、病気の発症前1か月か6か月にわたって月当たり45時間程度を超える残業があったときは業務と発症との関連性が強まり、発症前1か月間に100時間程度を超える残業があった場合か、発症前2か月か6か月間にわたって、月あたり80時間程度を超える残業が認められる場合には業務と発症との間の関連性が強いとされている。いわゆる「過労死ライン」だ。
つまり、今回の上限設定は、下手をすれば働き手を「過労死ライン」すれすれまで働かせていいとするお墨付きにもなりかねない。
また、新聞報道では「月60時間」との見出しを掲げているものが多いが、これも誤解を招く。
「月60時間」というと、過労死などの認定基準よりずっと少ないかのように錯覚しがちだ。だがこの数字は、年間720時間を12か月で割ったものにすぎない。月80時間を超える過労死ラインの労働が続いても、年間を通して平均で60時間におさまっているならいい、ということだ。
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