30年前に「日本企業排斥」を予言した経済人

米国トヨタ・ケンタッキー工場の生産ライン(トヨタHPより)
「米国で商売する以上は、徹底して米国企業にならねばならない。それには米国社会を知り尽くして根づくことが大切だ。日本人だけで群れていると、いつか必ず日本企業排斥の動きが起きる。私は本気で心配している」
これは1987年に、御手洗富士夫・米国キャノン社長(2006~10年経団連会長)が筆者のインタビューで語った言葉である。同氏はこの時すでに滞米21年。その経営手腕で、400万ドルだった米国キャノンの売上高を500倍の20億ドルに伸ばし、「奇跡の成功例」「現地化の優等生」と呼ばれた。
一方で御手洗氏は、米国社会の底流にある白人至上主義や保護主義、米国中心主義の動向に警戒を怠っていなかった。
安全保障の確約と自動車貿易のディール(取引)になる

米フロリダ州・パームビーチでゴルフを楽しみ、ハイタッチをする安倍晋三首相(左)とトランプ大統領=2月11日、内閣広報室提供
安倍首相とトランプ大統領の会談で尖閣諸島が日米安保条約の適用対象であることが明示され、政府内に安堵(あんど)感が広がっている。しかし、好事魔多し。
これから始まる経済対話の枠組みでは、自動車が最大の焦点になる。
米国の過去の通商交渉は「ディール(取引)」が基本。安全保障の満額回答と引き換えに、米国への多大な貢献や譲歩を求められるだろう。
日本の自動車業界は、トランプ氏から「不公正」と批判され、雇用創出を迫られている。これまで自由貿易を当然のルールとして構築してきたグローバルな生産体制が土台から揺さぶられている。
トヨタの豊田章男社長は「よき米国企業になりたい」と訴えている。事態は30年前の御手洗氏の予言通りに動いているように見える。
これから起きることを予測する前に、関係者が「この再現だけは避けたい」と言う80年代の日米自動車摩擦を簡単に振り返っておこう。
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