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オランダは「ポピュリスト政治」を食い止めたか?

右翼・自由党は第1党にはならなかったが、「反移民」「反EU」の機運は消えていない

小林恭子 在英ジャーナリスト

 欧州では、反移民、反EU政策を掲げる極右勢力が支持を拡大させている。そんな中、3月15日にはオランダ総選挙が投開票され、ルッテ首相率いる親欧州連合(EU)の中道右派・自由民主党(VVD)が、「反移民」「反EU」を掲げていた右翼・自由党(PVV)を破って第1党の座を守った。

 続く4月と5月にはフランスで大統領選が行われるほか、9月にはドイツで連邦議会選挙が始まる。いずれも、英国の欧州連合離脱(「ブレグジット」)や、米国での保守系政治家トランプ大統領の誕生のように、「ポピュリスト」の政治家が政治を牛耳る事態が発生する懸念が広がっている。欧州では「反移民」「反EU」の機運は依然として消えてはいない。

「間違ったポピュリズム政治に待ったをかけた」か?

ハーグの投票所で一票を投じるルッテ首相拡大ハーグの投票所で一票を投じるルッテ首相

 オランダの下院選挙(定数150)は、今回、国際的にも大きな注目を浴びた。 国内の有権者が注視したのは医療、年金制度、多文化主義への疑念、グローバル化、オランダの価値観など多岐にわたる。

 一方、海外が特に注目していたのは、金髪のオールバックが印象的なヘールト・ウィルダース党首の自由党(PVV)がどこまで議席数を伸ばすか、だった。

 PVVは強い反移民・反EU・反イスラム教の姿勢で知られる。複数の世論調査が、PVVは「第1党になる」と発表したことで、極右の政治の波がオランダを席巻し、その後に選挙を控えるフランスやドイツに大きな影響を及ぼす可能性が出ていた。

 しかし、16日、95%の票が数えられた時点での結果によると、ドラマチックな「席巻」は発生しなかった。連立政権の与党VVD(ルッテ首相が党首)が33議席(8議席減)を獲得して第1党を維持し、PVVは第2党(20議席、5議席増)に甘んじた。

 ルッテ氏は勝利宣言の中で、英国のブレグジット、米国のトランプ大統領誕生と続いた、「間違った種類のポピュリズム政治に待ったをかけた」と述べた。

 一方のウィルダース氏は、「希望していた30議席は取れなかったが、議席数を増やせた」、「愛国者の春は必ず来る」というメッセージを出した。

 PVVに続くのが、それぞれ19議席を獲得した中道右派のキリスト教民主党(CDA) (6議席増)と、リベラル系の「D66」(7議席増)。最も大きく議席数を伸ばしたのが、親欧州、親移民のグリーン・レフト党で、前回から10議席増やし、14議席を獲得した。PVV とともに連立政権を構成していた労働党(PvdA)は9議席で、29議席を失う大失態となった。

 ほかに、動物の権利を保護する動物党(5議席、2議席増)、年金者の生活を向上させるための「50プラス」(4議席、2議席増)、トルコ系移民の政治家が立ち上げた新党「デンク」(Denk)(3議席)などもそれぞれ議席を増やした。比例代表制を取るオランダでは、得票数の0・67%を取得すれば議席を獲得できるため、小規模政党が乱立する。今回は28の政党から候補者が出た。

 投票率は約80%。過去30年間で最も高い。親欧州とリベラル勢力の議席増加に貢献したと言われている。

反移民のナショナリズムを選択するかどうかの選挙

ハーグ郊外の投票所で一票を投じるウィルダース・自由党党首拡大ハーグ郊外の投票所で一票を投じるウィルダース・自由党党首

 「ポピュリストに待ったをかけた」というルッテ首相の言葉は、ウィルダース氏のPVVが第一党になるのを止めた、という意味では正しい。

 しかし、首相のVVD党は8議席を失っている。オランダの失業率は過去5年で最も低く財政支出削減策が功を奏し、経済成長率は年に2・3%だ。経済上の功績を考えると、それでも議席数が減った状態では「圧勝」と呼べるだろうか。かろうじて第1党を維持したようにも見える。政権へのアンチ票や、主流政党よりは個別の政治目標を掲げる少数派政党を好む、という有権者の志向も反映していそうだ。

 今回の選挙は、オランダが伝統的なオープンさ、中道政治を捨てて、反移民のナショナリズムを選択するかどうかのテストでもあった。

 地元NRC紙の社説(16日付)は、「ルッテ首相が言うように、(選挙の翌朝)オランダ国民は自国が『普通の国』であったことを知った」と書く。ナショナリスティックな国ではなかった、と。「ポピュリストによる反乱は起きなかった」。しかし、連立与党のVVDも労働党も議席を失い、「有権者にとって経済だけでは十分ではなかったことを示す」。

 極右勢力による挑戦はまだ終わっていない、とオランダの政治評論家ロデリック・フィーロー氏は言う(英ガーディアン、16日付)。「ルッテ氏はまだ健在だが、(EU域内での)無制限の移民流入や移民融合策の失敗、EUの官僚機構に対する不満感もまだ健在だ」

 新政権は「勇気を持ってこうした問題に対処する必要がある。そうすれば、ポピュリストの反乱は静かに消えてしまうだろう」としている。

反移民、反イスラム教感情の背景にあるものは

アムステルダム内の書店にはウィルダース氏を特集した雑誌が並べられていた拡大アムステルダム内の書店にはウィルダース氏を特集した雑誌が並べられていた

 何世紀も前から宗教上、政治上の迫害者を受け入れてきた歴史を持つオランダ。世界中の国と取引をするため、多様な価値観、文化を持つ人々に対処することにも慣れていたはずである。

 そんなオランダで、なぜPVVは支持を伸ばすことができたのだろうか?

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筆者

小林恭子

小林恭子(こばやし・ぎんこ) 在英ジャーナリスト

秋田県生まれ。1981年、成城大学文芸学部芸術学科卒業(映画専攻)。外資系金融機関勤務後、「デイリー・ヨミウリ」(現「ジャパン・ニューズ」)記者・編集者を経て、2002年に渡英。英国や欧州のメディア事情や政治、経済、社会現象を複数の媒体に寄稿。「新聞研究」(日本新聞協会)、「Galac」(放送批評懇談会)、「メディア展望』(新聞通信調査会)などにメディア評を連載。著書に『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス(新書)』(共著、洋泉社)、『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)。

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