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どう防ぐ、高齢者の交通事故

安全で安心して暮らせるユニバーサルデザインの社会づくりを

土堤内昭雄 公益社団法人 日本フィランソロピー協会シニアフェロー

高齢化と交通事故 

 今年1月、日本老年学会が現在の「65歳以上を高齢者」とする定義を見直す提言を行った。同提言では、65歳から74歳の前期高齢者は、心身の健康が保たれ活発な社会活動が可能な人が多いことから准高齢者とし、75歳以上を高齢者、90歳以上を超高齢者と区分するとしている。

 平均寿命が延びた今日、加齢による身体的機能の変化の出現が遅くなった。これまでも前期高齢者は「アクティブシニア」などと呼ばれ、65歳を過ぎても働き続ける高齢者は増えている。日常生活の必要性から車の運転をする高齢者も多い一方、個人差はあるが加齢による心身の衰えは少なからず存在することも確かだ。

 今後も日本人の平均寿命は延びて、2060年には男性84.19歳、女性90.93歳に達する長寿時代を迎えるとみられる。一方、2012年に462万人だった認知症患者は、2060年には850万人から1,154万人にのぼると推計されており、65歳以上高齢者の3人から4人にひとりが認知症になると思われる。

東京都立川市で起きた高齢ドライバーの事故現場=2016年11月
 最近、高齢ドライバーによる悲惨な交通事故が後を絶たない。数年後に高齢者の仲間入りをする私は、交通事故の被害者はもちろん加害者になることを懸念している。無事に定年を迎えたら、退職後にやりたいこともたくさんあるが、万一、重大な交通事故を起こせば、その「夢」は水泡と帰してしまうからだ。

 高齢者が交通事故の被害者や加害者にならずに幸せな「長寿時代」を迎えるためには、どうすればよいのだろう。今年3月、認知症対策を強化した改正道路交通法が施行され、運転に不安を覚える高齢者の運転免許の自主返納も行われている。今後は、超高齢社会に向けた交通安全対策が求められる。

被害者としての高齢者事故

 警察庁の「交通事故の発生状況」によると、2015年の交通事故発生件数は53万7千件、死傷者数は67万人ほどと、10年前の6割以下まで低下した。しかし、全年齢層の負傷者数が大幅に低下する一方、人口高齢化の影響で65歳以上高齢者の減少数は少なく、交通事故に遭う人に占める高齢者の割合は確実に高まっている。

 「平成27年交通事故分析」をみると、交通事故の死者の状態別では「歩行中」が37.3%、ついで「自動車乗車中」が32.1%となっている。事故の類型別では「正面衝突等」が29.1%、ついで「横断中」が25.9%と多い。「正面衝突等」の場合は約8割が単路(交差点、交差点付近、踏切等以外の道路部分)で発生し、「横断中」では半数が交差点で起こっている。

 2016年の交通死亡事故の死者3,904人のうち、65歳以上の高齢者は2,138人(54.8%)。人口10万人当たりでみると、全年齢層では3.07人だが、高齢者では6.39人と2倍以上にのぼる。高齢者が道路の「横断中」に死亡するケースでは、交差点、単路ともに左からの進行車両による事故が多い。道路横断時に左側から近づく車両との安全距離の誤認が大きな要因と考えられる。

運転者としての高齢者事故、多い「車両単独」

 警察庁の「運転免許統計」をみると、2015年の運転免許保有者は8,215万人、10年前に比べ4.3%増加した。65歳以上の高齢ドライバーは、1,710万人と全体の約2割を占め、事故発生確率が高くなる75歳以上の高齢ドライバーは478万人、男性が全体の4分の3を占める。今後は免許保有者の多い60代女性の高齢化により、75歳以上の高齢ドライバーにおける女性比率の上昇が一層進むだろう。

 年齢層別の免許保有者10万人当たりの事故発生件数は、65歳以上では全体平均より少ない。しかし、原付以上運転者の年齢層別交通事故は、

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