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[36]「1日8時間労働」骨抜きの働き方改革

過労死防止と女性活躍に黄信号。本気の取り組みなしではまもなく赤信号に変わるだろう

竹信三恵子 ジャーナリスト、和光大学名誉教授

 安倍政権がアベノミクスの柱と位置づけてきた「働き方改革」の実行計画が3月28日、まとまり、この中の労働時間規制の上限について、4月7日、労働政策審議会労働条件分科会で審議が始まった。労働時間問題で残業に上限規制が設けられたこと自体は、一歩前進かもしれない。だが、過労死防止や女性活躍社会の実現という目的から見ると、今回の計画は、「黄信号」だ。

 この二つの実現に不可欠な、1日あたり、1週あたりの労働時間を規制する視点がほとんど見られず、むしろ、国際労働機関(ILO)1号条約で定められている労働基準の大原則、「1日8時間労働」の骨抜き、なし崩しにつながりかねないものをはらんでいるからだ。

「過労死防止法に違反」と遺族

働き方改革実現会議に臨む、連合の神津里季生会長(右から3人目)、経団連の榊原定征会長(同4人目)ら=3月28日午後、首相官邸働き方改革実現会議に臨む、連合の神津里季生会長(右から3人目)、経団連の榊原定征会長(同4人目)ら=3月28日午後、首相官邸

 3月15日、国会内で開かれた「過労死ラインの上限時間を許すな」と題した緊急集会で、遺族から「過労死基準の労働時間まで働かせてもいいと法律に書き込むことは、過労死等防止対策推進法の趣旨に違反だ」との声が上がった。

 この法律法は2014年、遺族たちの働きかけで生まれ、「過労死等の防止のための対策を推進」するとされている。ところが今回の実行計画に先立つ「政労使合意」では、厚労省が健康のための指導基準としてきた月45時間、年360時間の残業限度を原則とはしつつも、特に忙しい時の上限が1カ月で100時間未満、2~6カ月の月平均残業時間が80時間以内と、ほぼ過労死基準に当たる数字に設定されたからだ。

 今回の実行計画では「政労使合意」に沿って、労使協定を条件とする特例として、「年720時間」の残業上限も盛り込まれた。ここには休日労働が含まれておらず、また、現行の厚労省の指導基準にある「1週あたりの残業15時間」などの週当たりの残業規制もない。

 その結果、週1回の法定休日も働かせることができ、月平均80時間の12カ月分、つまり年960時間まで働かせることができると指摘されていたが、この部分の規制策もはっきりしないままだ。

 このような「残業上限」が労働基準法に書き込まれれば、従来の「週40時間、1日8時間」という法定労働時間に加え、「月45時間、年360時間の原則」、「複数月平均80時間、単月100時間、年720時間(休日労働を含めれば960時間)という特例」の二つの法定外労働時間が認められ、三重の労時間基準が生まれる。週40時間、1日8時間は「その他大勢の基準のひとつ」にすぎなくなり、「残業代支払い基準以外には、意味をもたなく」(森岡孝二・関西大学名誉教授)なるということだ。

http://hatarakikata.net/modules/morioka/details.php?bid=347

 唯一の1日あたりの残業規制ともいえる「業務間インターバル規制」(終業と次の始業との間に一定の働かせてはならない時間を設ける規制)も、実行計画では企業の努力義務にとどまり、一方、一定の条件の働き手を「1日8時間労働」などの労働時間規制から外す「高度プロフェッショナル制度」の推進が強調される。

 つまり、今回の改定は、「残業の総量規制」のスローガンの影で、1日単位、1週単位の労働時間規制のなし崩し、骨抜きを強力に進めるもの、といえそうだ。

労働時間規制の本丸は「1日8時間労働」問題だ

 なぜ、「1日8時間労働」が問題になるのか。それは、過労死の防止や女性活躍にとって、1日の労働時間規制こそが「本丸」だからだ。

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