マクロン氏は実は小泉元首相や橋下前大阪市長によく似ている……
2017年06月01日
5月7日のフランス大統領選挙の決選投票では、昨年4月に政治運動「前進」を立ち上げたばかりのエマニュエル・マクロンが、国民戦線のマリーヌ・ルペンを、予想を上回る大差で下して勝利した。
反EU(欧州連合)を掲げたルペンに対し、親EUのマクロンが勝利したことで、世界中が安堵しているかのようだ。
昨年6月の、イギリスの国民投票でのEU離脱派の勝利と、11月のアメリカ大統領選挙でのトランプ氏の勝利は、世界中の先進国で孤立主義・保護主義の動きが台頭していることを示した。
マクロンの勝利は、この孤立主義・保護主義の動きを押しとどめるものと期待されている。
とりわけフランスの場合、万一、ここで反EUの大統領が誕生すると、EUが本当に瓦解(がかい)するリスクが生じる。世界経済が大混乱に陥る可能性もある。取りあえずはこの可能性が押しとどめられたことが安堵の理由である。
だが、大統領選挙の第一次投票に立候補した11人の候補者のうちで、明確に親EUを掲げていたのは、マクロンと共和党のフィヨンだけであり、この二人を合わせた支持率が44%しかなかったのも事実である。
フランス国民は、マリーヌ・ルペンが体現する極右は避けたが、EUを明確に支持した訳ではない。
結局、マクロンがこれからの5年、大統領として成功するか否かが、EUの将来を決することになる。
マクロンの政治信条は、孤立主義・保護主義を掲げるルペンやトランプの政治信条とは正反対の、グローバリズムと自由主義への志向である。かれのマニフェストから、その経済政策・社会政策を見て行こう。
経済政策のマニフェストから主なものを挙げると、
1 国と地方を合わせて約20万人の公務員の削減
2 公共部門と民間部門の年金の一元化
3 労働規制の緩和(週35時間の労働時間制限は維持するが、その中での労使交渉に国は関与しない)
4 法人税率の引き下げ(33%→25%)
5 現在10%である失業率の7%への引き下げ
6 150億ユーロの職業訓練投資
7 低所得層とその雇用者に対する一定の社会保険料免除
このマニフェストから明らかなのは、マクロンの「仮想敵」が公共部門であるということだ。一方、法人税率を引き下げ、労働規制を緩和することで、民間雇用を拡大して失業率を改善するという戦略である。
なお、マニフェストでは、公務員の削減や公共投資の効率化により600億ユーロの公共支出の削減が可能であり、上述の職業訓練投資や、後述の社会政策の費用を勘案しても、財政赤字の削減が可能で、EUの規定する財政赤字上限(GDPの3%)が達成可能としている。ちなみに2016年の財政赤字はGDPの3.3%であった。
社会政策のマニフェストは多岐にわたるが、この中から移民・難民問題に関連するものを挙げると、
1 難民申請プロセスを6カ月以内に短縮
2 公共スペースでの「世俗主義」の堅持(但し、学校でのイスラムのベール禁止は支持しない)
3 一定の低所得地域でのフランス語教育・フランス化教育の徹底
4 警察官を1万人増員し、刑務所の定員を1万5000人増強
5 国防費の大幅増(GDPの1%強から2%へ)
マクロンの政策は、移民や難民に対して寛容であり、この限りで排外主義ナショナリズムを掲げるルペンとは対称的であるが、それはまた、移民や難民に対して徹底した「フランス化」を求めるものであり、そのための投資も惜しまない姿勢が明確だ。
一方、警察と国防の大幅な強化を謳(うた)っているが、テロに見舞われ続けるフランスの危機感から、これは当然だろう。そこには、移民・難民の流入が問題だというより、移民・難民の流入に対して十分な社会政策が採られてこなかったことが問題だと考える理想主義がある。
ポピュリズムが、「右であれ左であれ、既存の政党と政治家が自分たちを代表していない」と考える人びとの心情に訴える政治戦略であるとするなら、フランス社会党に見切りをつけて、オランド政権の経済相を辞任し、自らの政治組織を立ち上げたマクロンもまた、ポピュリストである。
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