東芝問題で見えた「部門の寄せ集めでは会社が滅ぶ」という現実
2017年06月06日
東芝の半導体メモリ事業(東芝メモリ)の売却先がなかなか決まらない。もし期待通り2兆円以上で売れば、5400億円の債務超過を解消してお釣りがくるが、営業利益の大半を稼ぎ出す東芝メモリを手放して、今後も経営を持続できるかどうかは不透明だ(下の表参照)。
日本のエレクトロニクス産業には、「総合」の名がつく企業がいくつもある。ふつう東芝、日立、三菱電機、パナソニックを「総合電機」、シャープ、富士通、NEC、ソニーを「総合家電」「総合エレクトロニクス」などと呼ぶ。それぞれ家電製品、発電機などの重電製品、半導体、ロボット、電子部品などを幅広く生産する。
その「総合」と言う言葉に、エレクトロニクス企業の最大の弱点が潜んでいる。
「総合」といっても、実際は複数の事業部門の寄せ集めでしかないことが多い。各部門を統括する担当役員はその部門の出身者であり、同時に利益代弁者である。社長といえども各部門の内情に踏み込んでグリップすることは簡単ではない。
各部門にとって、ライバルは同業他社とともに社内の他部門である。その対抗心がドライブ力となり、日本メーカーは1980年代にテレビや半導体で世界の主導権を握る強さを発揮した。
しかし、各部門が縦割りでは情報共有が難しく、全体の力を素早く結集する経営ができない。これが90年代以降、社会や産業を根底から変えるインターネットへの対応が遅れ、日本メーカーが衰退することになった原因だ。
東芝の現社長・綱川智氏は医療機器部門を歩み、子会社の東芝メディカルシステムズ(昨年キャノンに売却)を世界の一流企業に育てた人だ。しかし、いま焦点のメモリ部門や原子力部門については知識が乏しかったと言われる。社長に就任して初めて、原子力部門が隠していた1兆円もの巨額損失を知って仰天したことだろう。
2006年に米国の原発メーカー・ウェスティングハウス(WH)を6600億円という相場の2倍以上の高値で落札した西田厚聰社長は、パソコン部門の出身だった。自分の後任に原子力部門の佐々木則夫氏を選んだが、やがて不満を抱き、その後任に田中久雄氏を選んだ。
その会見場で西田氏は、佐々木氏が国内原発一筋で国際経験が乏しい点をチクチク批判。佐々木氏は「西田さんこそパソコンだけの人」とやり返した。「部門あって会社なし」の体質が露呈した場面だった。
慶応大学の斎藤卓爾准教授は「もし日本メーカーが本気で『総合』という生き方を選ぶなら、社長・役員に各部門の代表選手を選ぶのでなく、幅広い分野に精通して経営手腕の優れた人物を意識的に養成しておかなければならない」という。
それには米国の総合電機メーカーGEが検討材料になる。
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