シェアリングのビジネスモデルで、買い物難民問題を解決へ
2017年07月05日
買い物難民問題のソリューションとして、2012年から移動スーパーをプロデュースする仕事に取り組んでいる。これまで我々の作りだした移動スーパー「とくし丸」は全国で200台超。それぞれの地域で日々の買い物に苦労をしている人たちの役に立っている。
私自身は2016年に独立して会社を興し、現在は徳島・香川両県の「とくし丸」27台の運営サポートをしている。この数年間、お客様探しのために歩き続け、戸別訪問した軒数は5万軒を超えた。そんな経験から本稿では、移動スーパーという仕事の厳しさと楽しさ、さらには買い物難民を生み出した資本主義の問題と未来について、地域を歩く現場からの声をあげてみたい。
夕方、スーパーに帰ってきたら返品と翌日の準備。帰路につくのは夜の7時頃でほぼ12時間労働だ。ずっとアウトドアなので気候によってはかなり体にこたえる(日本の気候は、さわやかな時期は短く厳しい期間が長い)。始めて数カ月は正直「これは続かない」と感じていた。が、やがて半年もすると体が慣れてきて、何とかこなせるようになってきた。人間の体はかなりのところまで環境に適用するのである。
きついのは体だけかというと、アタマも実によく使う。朝から晩まで、お客さんの注文や拠点店との連絡などでクルクルと考え続けている。一日が終わればぐったりだ。本当にハードな仕事なのである。
ただ、こんなにきつい仕事なのだが、私が月に1回行う面談の中で、販売パートナーさん(車のオーナーで販売を担当する個人事業主)がいつも口にするのは、意外やその楽しさである。移動スーパーの仕事はきついけれども楽しいのである。
まず販売現場が楽しい。すべてが対面販売なので、おしゃべりが楽しい。ほとんどが買い物に困っているお客様なので、一日中「ありがとう」のキャッチボールだ。お役に立っているのがリアルに感じられて自己効力感が満たされる。
「行動経済学」と言われる研究分野では、「利他的」であることは幸せを感じられる大きな要素だという。人の幸福にとって「お金」は大切なものだが、同時に「人の役に立っている感」もそれに劣らず欠かせない要素なのだ。我々の仕事の楽しみは、その多くの部分が利他的な原理に因っている気がする。
しかしここに来て、この買い物難民が「市場」であることに気づいた大資本が、一気に押し寄せてきた。全国区のチェーンストアやコンビニ各社など資本主義のマンモスたちが、こぞって私たちの軽トラックとそっくりの移動スーパーを作って参入してきたのである。我々の地元でも、明らかに2台は過剰供給であろう過疎地に大手コンビニの移動スーパーが割り込んできた。
先の行動経済学には続きの研究があって、本来「利他的」である人間も、いったん競争市場に放り込まれると、たちまち利己的になってしまうという。数字がすべての世界では、利他的であることは何の意味もなさないので自然と「利己的」になってしまうというのだ。
我々も、今後は「買い物難民争奪戦」といったおぞましいレッドオーシャンにいやおうなく巻き込まれていくのだろうか。いずれにしても移動スーパー業界は今、新しい局面を迎えている。
買い物難民増加の原因についてはすでに多くが論じられているし、それほど複雑な問題ではない。要するに、
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