超高齢社会を支える事例報告を読む
2017年07月14日
自治会の役員たちに「いま一番気がかりな問題は何ですか」と聞けば、「増え続ける高齢者の見守り」と言う答えが例外なく返ってくる。2025年には人口の5人に1人が後期高齢者(75歳以上)になる。この人々をどのようにケアし、地域社会を維持していくのか、現場では葛藤の日々が続く。
千葉県松戸市の常盤平地区で高齢者のケアに取り組む「高齢者支援連絡会専門部会」が5月、23件の事例を「地域ケアの実践、この教訓を全国に」という報告書(注)にまとめた。
常盤平には1960年に日本住宅公団が建設した戸数6000戸の巨大団地がある。東京のベッドタウンであり、当初は子育て家族でにぎわったが、今は住民7000人のうち65歳以上の高齢者が48%を占める。いわゆる「首都圏問題」を象徴する団地である。
報告書は医師、看護師、薬剤師、保健師、介護支援専門員、社会福祉士ら11人が執筆した。独居、引きこもり、徘徊(はいかい)、慢性病、貧困、孤独死などに対応した117事例の中から、全国で活用してもらえそうな23例を選んだという。
このうち要介護高齢者の3事例について、関係者の考察を付記して紹介する。
◆悪質商法にだまされやすい独居の80代女性(要介護2)
息子や弟とも縁が切れ、物忘れが進行している。訪問介護の人に「料金が高い」と言って数百円を惜しむ半面、不要な住居工事や、出没不明のハクビシン捕獲費用などに何十万円も糸目をつけず払う。
《考察》日常的な金銭管理ができておらず、悪質商法にだまされやすい。成年後見人の話をしても、本人は理解できず話をそらしてしまう。相談すべき人に相談していない。やむを得ずケアマネジャーが一時的に金銭管理をすることがあるが、地域住民の信頼を得たうえで、銀行や警察も加わり、責任を持って金銭管理を行う組織が必要ではないだろうか。
◆ゴミ屋敷で暮らすうつ病の60代男性(経過的要介護)
住宅は築50年で老朽化し、家の中はゴミの山になっている。本人はきれいにしてリフォームしたい気持ちがあるが、経済的余裕がなく病気もあって踏ん切りがつかない。
《考察》町内会、民生委員、市のゴミ担当者が協議するが、市は「個人の屋敷内のゴミは個人の責任」との立場。しかし、東京都足立区のように2013年にゴミ屋敷条例を作り、専門の職員が当人や親族と接触して片付けている例もある。これまでに125件を解決したという。参考にしたい。
◆認知症の80代母親の行動に悩む家族(要介護4)
長女夫婦と3人暮らし。アルツハイマー型認知症と診断されたが、身体は健康なので、外出時は目が離せない。行方不明になり、防災無線で情報を流して発見したことも。
《考察》家族だけの対応には限界があり、地域・町ぐるみで支え合うことが大切。周囲に知らせたがらない家族が多いが、むしろ公開して地域に病気を受け入れてもらい、多くの接点を持つことが肝要。ご近所の底力を発揮できる草の根ボランティアの育成も課題だ。
23事例はどれも高齢者を相手に奮闘する担当者の苦労がうかがえる。心無い言葉を浴びせられて落ち込むこともあるが、地元の地域包括支援センター長の森下裕子さんは、「丹念に信頼関係を作り、心を開いてもらうことで対応が可能になる」と語る。
報告書をまとめた開業医の堂垂伸治氏(千葉大学医学部臨床教授)は、「介護の仕事は本業の他にも報告書作成や講習会などに追われ、時間外勤務が当たり前の状態。しかも、賃金は他業種より低く、生活維持に手いっぱいで、心のゆとりを持って利用者に接することが難しい。私を含め高齢者はいずれ世を去る。それを生産年齢世代の人たちが低賃金で支えている。『高齢者の尊厳』は大切な理念だが、『働く人の尊厳』をもっと大事に守らなければならない」と訴える。
介護の現場は離職者が多く慢性的に人手不足だ。厚生労働省の推計では2025年に37.7万人(必要数の15%)が不足し、中でも東京など首都圏が深刻だという。
何か対策はないのだろうか。
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