対立の構図を読み解く―中印対立は「新常態(ニューノーマル)」として織り込むべきだ
2017年09月20日
中国とインドが激しいつばぜり合いを見せている。一時は経済交流を拡大し、世界の貿易交渉や気候変動問題でも共同歩調を見せ、「竜象共舞(中印の共存共栄)」と呼ばれたが、競争と対立の構図は深まりつつある。今後の世界秩序を考える上で、中印対立は「新常態(ニューノーマル)」の要素として織り込んでいくべきだろう。
中国とインドの両国軍がヒマラヤ山中の国境地帯で対峙(たいじ)し、2カ月以上にわたって膠着(こうちゃく)状態が続いた。
9月初めに中国で開かれたBRICS首脳会議を前に、兵力撤収に合意したが、基本的な問題は何ら解決していない。対立の構図は単なる国境紛争ではなく、「アジアの主導権争い」として読み解く必要がある。
ことの発端は、中国軍の挑発的な行動にある。
今年6月中旬、中国とブータンの係争地、ドクラム高原で中国軍が戦車も走れる道路の建設を始めた。これに対し、ブータンの「後ろ盾」であるインドが工事中止を求め、派兵した。中印双方が相手国軍の撤退を求め、非難合戦を展開し、「1962年の中印国境紛争以来55年ぶり」とされる長期の緊張が続いた。
ドクラム高原の南にあるインドのシリグリ回廊は「チキンズ・ネック」と呼ばれ、インド北東部につながる要衝だ。バングラデシュ、ブータンに挟まれ、最も狭い場所は幅27kmしかない。ここが占拠されれば、北東部への物流が遮断される。
北東部はインドの「弱い脇腹」だ。8州にモンゴル系民族が住み、インドの発展の波に乗り遅れた貧困層が多い地域である。第2次大戦中に日本が進攻したインパールやナガランドがある。この地域では、インド独立後も武装勢力の分離独立運動が絶えず、中国がミャンマー経由で彼らに武器を援助した時代もあった。
こうした北東部の事情もあり、インド政府はブータンやミャンマーなど近隣の情勢と中国国境の動向に敏感だ。とりわけブータンとは常に親密な関係を築いてきた。
ブータンは水力発電による電力をインドに輸出するのが、最大の外貨獲得源だ。安全保障もインド頼みだ。首都ティンプーには広大なインド軍基地があり、軍事顧問団と部隊を1000人以上駐屯させている。外交面でもインドの助言を受け、「保護国」に近い立場にある。
一方、中国は近年、ブータンに多勢の観光客を送り込み、存在感を増してきた。中国政府は「国境問題の解決のためにも関係を緊密化したい」と、ブータンとの国交樹立を求めている。南アジアへのアクセスを強めたい「南下戦略」の思惑がある。
これに対し、インドのナレンドラ・モディ首相は2014年に就任後、最初の外遊先としてブータンを訪問し、固い結束を見せて中国を牽制(けんせい)した。
今回は、9月3日から中国アモイで開いたBRICS首脳会議を前に、8月末に両国軍の撤収で合意し、2カ月以上続いた緊張はひとまず緩和した。9月3日の中印首脳会談では、習近平国家主席とモディ首相は硬い表情ながら、国境紛争の再燃を防ぐよう軍関係者の交流促進などの方針を確認した。
だが、中国は会議の議長国としてメンツを優先した形で、道路建設中止を決めたわけでない。紛争の火種は残ったままだ。インドのビピン・ラワット陸軍参謀総長は、軍の撤収合意後も「中国はサラミを一枚ずつ切り取るように少しずつ領土を奪い取り、相手を試している」と語り、少しも警戒を解いていない。
では、そもそも中国の狙いは何だったのか、ここで再考しておく必要がある。
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