建前と本音の狭間で深刻化する、外国人留学生・技能実習生問題
2017年12月19日
法務省在留外国人統計(旧登録外国人統計)統計表によると、2017年6月末の時点で日本に暮らす外国人の数は247万人を超え、2016年末と比べ88,636人の増加となりました。このままのペースが続けば、2017年12月末には250万人に達し、いずれも過去最高を記録することになります。在留資格別に見ると、「永住者」が738,661人(在留外国人数全体に占める割合は29.9%)で最も多く、次いで「特別永住者」が334,298人(13.5%)、「留学」と「技能実習」がそれぞれ291,164人(11.8%)、251,721人(10.2%)となっています。(図1)
中でもこの5年間で最も増加が顕著であったのは、「留学」と「技能実習」の在留資格を持つ外国人です。ここ数年のうちに、コンビニエンスストアやファストフード店などで外国人店員を見かけることが顕著に増え、一部地域では日常の光景となりつつあります。
図2に見られるように2013年末から2017年6月末の間に留学生は98,000人以上、技能実習生は96,000人以上増加しました。在留資格上、その数が最も多い「永住者」でも、増加数が83,000人であることを考えるとかなり速いペースで増え、「留学生問題」や「技能実習生問題」としてしばしばメディアでもその課題が取り上げられるようになりました。
留学生の増加には、いわゆる「留学生30万人計画」が大きな影響を及ぼしています。この計画は2008年にスタートしていますが、2010年7月には改正入管法が施行され、それまで「就学」という在留資格で日本に在留していた日本語学校の学生たちも、この改正に伴い、大学や専門学校で学ぶ外国人学生と同様「留学」という在留資格に統合されました。
このことが「留学生数の増加」に一役買っているとみられますが、欧米諸国等では大学や専門学校で学ぶ留学生とその前段階となる語学学校の学生の在留資格は分けられたままであることが多く、ドイツやカナダ、アメリカなどは語学学校に通う学生のアルバイトは禁止となっています。また、大学等に在籍する留学生のアルバイト時間数も20時間程度が大半であり、「学業のための滞在」であることを逸脱しない範囲に限定されています。
日本でも、2009年まで在留資格「就学」で滞在していた日本語学校の学生たちの就労可能な時間数は1日4時間まででした。それが2010年の改正に伴い、大学生等と同様の週28時間まで引き上げられたことが、いわゆる「“偽装”留学生問題」の発端となっている可能性が考えられます。
「“偽装”留学生」とは、日本語学校の学生の身分で来日してはいるものの、その目的は学業ではなく「就労」である学生たちのことを表していて「出稼ぎ留学生」とも呼ばれています。アルバイトに疲れ日本語の勉強もままならず、中には違法に週28時間の制限を超えて就労する学生の存在も少数ではないことが指摘されています。
11月21日には、佐賀県の日本語学校で学んでいたスリランカ人の男性が、学費を滞納したことを理由に日本語学校を提訴したことが西日本新聞に掲載されました。この男性は、渡航前に学校側から「月200時間稼げる」などと説明を受け、多額の借金をして来日したが、実際には週28時間しか働くことができず、学費を滞納したこと等を理由に退学処分とされ精神的苦痛を受けたとしています。彼が在籍していた日本語学校側は反論しており、事実関係はまだ明らかになっていません。
筆者が調べた限りでも「日本語を学びながら働ける」ことをメリットとして、日本語学校への留学生募集を行う広告はFacebookなどのSNS上に複数存在しており、中には「日本での時給は1,200円~1,600円」とするものや、「日本で働くためには留学生となるのが最もスピーディー」とうたう現地留学エージェントや関係者によるとみられる記事からは、移民政策が“不在”となっている日本に、「サイドドア」が存在していることがうかがえます。
佐賀地裁に訴えを起こした男性は、日本へ来るために日本語学校の学費や現地仲介手数料など約150万円の借金をして来日したと報じられています。週28時間のアルバイトのみでは、時給が1,000円だとしても月に約12万円程度にしかならず、借金の返済、毎月の生活費、学費、そして家族への仕送りを賄うには足りないことは明らかですが、現地エージェントや、あるいは日本語学校等から「十分に働ける、稼げる」と誘われれば、平均月給が1万円~2万円前後の国や地域の若者にとっては夢のような話に聞こえてもおかしくはありません。
留学生は多額の借金から現地エージェントへ手数料を支払う一方、留学生から授業料を受け取る日本語学校側も、エージェントへあっせん料を支払っていた事例が報じられるなど、この「“偽装”留学生問題」は、決して留学生として来日した学生のみの問題ではなく、送り出し側と受け入れ側の思惑が交錯した隙間に生じている問題であるといえます。
同様の構造的問題を抱えているのが、「技能実習生問題」です。技能実習生制度は、「人材育成を通じた国際貢献」を建前とする制度ですが、その実態は人手不足解消のための労働力の供給源となっており、今では実習生がいなければ成り立たないと公言する受け入れ企業もあるほどで、中小企業や農家などの生命線となりつつあります。
国内では実習生が実習先で外部との接触を制限されたり、不当に高額な寮費を天引きされたり、休日がほとんどない中で十数時間の労働を強制されたり、医療へのアクセスを絶たれたりなど、悪質な受け入れ企業等による人権侵害とも呼べる状況が報道によって次々と明らかとなりました。また、実習先から「逃亡」した実習生が不法就労するケースも後を絶たず、その背景には留学生同様、多額の借金を背負い来日している実態があることも明らかとなりつつあります。
中国と並び、多数の若者を実習生として送り出しているベトナムにおいて、実習生に対する渡航前の日本語教育を数年間担当している日本人のA氏に筆者がメッセージを通して現地事情を伺ったところ、ベトナム現地で起きている実習生問題について詳細な回答を得ることができました。
A氏---「(現地には)ベトナム人・日本人のブローカーが存在します。ベトナム人ブローカーとは、実習生になりたい人材と送り出し機関を繋げることを生業としています。ブローカー自身が紹介した実習生希望者が送り出し機関で日本企業の採用面接に合格した際500USD(米ドル)~2,000USDを本人から徴収します。また、実際に出国した際に、送り出し機関から500~1,000USDを受け取ります。実習生希望者が送り出し機関にたどり着くまでにこのブローカーを何人も介している場合があり、そうなると×(かける)人数分ということになります。
日本人のブローカーは、送り出し機関複数社と社員契約・駐在員契約を結び、
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