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この国の目玉政策はなぜいつもドイツの後追いか

教育無償化、第4次産業革命、働き方改革、地方創生……今も続く明治の「伝統」

木代泰之 経済・科学ジャーナリスト

政策構想力や現状を打破する力が衰えていないか

会談する日独首脳(2015年3月)。日独には類似点が多く歴史的にも関係が深い=外務省のHPより拡大会談する日独首脳(2015年3月)。日独には類似点が多く歴史的にも関係が深い=外務省のHPより

 大学の授業料を免除する高等教育の無償化が来年度から動き出す。安倍政権は「人づくり革命」と称して自賛するが、「今度もまたドイツの後追いか」と漏らす官僚は少なくない。ドイツは4年前に大学授業料を無償にしており、それが手本になっているのだ。

 教育無償化だけではない。AIやIoTで産業を変革するSociety5.0(第4次産業革命)も、長時間労働を改める働き方改革も、衰退する地方を活性化する地方創生も、再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度も、国民が日本独自と思っている最近の目玉政策は、どれもドイツの先例に倣(なら)っている。

 総務省の官僚は「ドイツを後追いまたは模倣していることは多くの官僚が知っていることだ」と認める。良い政策であればそれもよいが、独自の政策構想力や現状打破の力が衰えているのであれば問題だ。

 なぜドイツを後追いするかは後で考察するとして、上記の5事例について個々に検証してみよう。

ドイツの成長戦略を模倣した「人づくり革命」

 まず教育無償化。所得が少ない住民税非課税世帯は国立大学の入学金や授業料を免除し、返済がいらない給付型奨学金を拡充する。

 日本の教育への公的支出率(対GDP比)は世界でもその低さが有名だ。OECD加盟34カ国中の万年最下位で、その分、私費負担が重い。いま子供6人に1人、シングルマザー世帯では50%以上が貧困状態だ。子どもが大学に進学できなければ、格差は連鎖し、非正規化や少子化につながる。

 一方、ドイツの公立大学はもともと無償だった。2006年に一度有償にしたが、14年に無償に戻した。根底には「親の経済力に左右されず、誰でも高等教育を受けられることが国の発展の基礎になる」という理念がある。ちなみに米国の学生が抱える平均ローン残高が400万円もあるのとは対照的だ。

 つまりドイツにとって教育無償化とは、機会均等だけでなく、高度な人材育成のための成長戦略なのだ。その理念をちょうだいした「人づくり革命」で、日本はようやく重い腰を上げた。

出遅れた経産省があわてて打ち出したSociety5.0

 二つ目はSociety5.0。「AIやビッグデータを産業に取り入れ、機械・人・モノをインターネットで横串を刺すようにつなぎ、付加価値を生み出す」という政策だ。

 ドイツは2011年に、世界に先駆けてインダストリー4.0(第4次産業革命)を打ち出した。産業革命は第1次が機械化、2次が電力活用、3次がITによる生産自動化、第4次は「インターネットでつながる工場」である。

 工場の設備や部品、製品をネットでつなぎ、ドイツ全体を一つの仮想工場に見立ててスピード感のある最適生産を実現しようという壮大な試みだ。車メーカーはじめほとんどの主要企業が参加している。

 米国もこれを追って「先進的製造業」という旗印を打ち出したが、日本にはデジタル化する産業の将来構想は何もなかった。独米を見て16年にあわてて打ち出したのがSociety5.0。その概念も似ている。経産省内には「ドイツが言い出さなければ、日本は思いつきもしなかった」と自省の声がある。

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筆者

木代泰之

木代泰之(きしろ・やすゆき) 経済・科学ジャーナリスト

経済・科学ジャーナリスト。東京大学工学部航空学科卒。NECで技術者として勤務の後、朝日新聞社に入社。主に経済記者として財務省、経済産業省、電力・石油、証券業界などを取材。現在は多様な業種の企業人や研究者らと組織する「イノベーション実践研究会」座長として、技術革新、経営刷新、政策展開について研究提言活動を続けている。著書に「自民党税制調査会」、「500兆円の奢り」(共著)など。

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