教育無償化、第4次産業革命、働き方改革、地方創生……今も続く明治の「伝統」
2018年01月15日
大学の授業料を免除する高等教育の無償化が来年度から動き出す。安倍政権は「人づくり革命」と称して自賛するが、「今度もまたドイツの後追いか」と漏らす官僚は少なくない。ドイツは4年前に大学授業料を無償にしており、それが手本になっているのだ。
教育無償化だけではない。AIやIoTで産業を変革するSociety5.0(第4次産業革命)も、長時間労働を改める働き方改革も、衰退する地方を活性化する地方創生も、再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度も、国民が日本独自と思っている最近の目玉政策は、どれもドイツの先例に倣(なら)っている。
総務省の官僚は「ドイツを後追いまたは模倣していることは多くの官僚が知っていることだ」と認める。良い政策であればそれもよいが、独自の政策構想力や現状打破の力が衰えているのであれば問題だ。
なぜドイツを後追いするかは後で考察するとして、上記の5事例について個々に検証してみよう。
まず教育無償化。所得が少ない住民税非課税世帯は国立大学の入学金や授業料を免除し、返済がいらない給付型奨学金を拡充する。
日本の教育への公的支出率(対GDP比)は世界でもその低さが有名だ。OECD加盟34カ国中の万年最下位で、その分、私費負担が重い。いま子供6人に1人、シングルマザー世帯では50%以上が貧困状態だ。子どもが大学に進学できなければ、格差は連鎖し、非正規化や少子化につながる。
一方、ドイツの公立大学はもともと無償だった。2006年に一度有償にしたが、14年に無償に戻した。根底には「親の経済力に左右されず、誰でも高等教育を受けられることが国の発展の基礎になる」という理念がある。ちなみに米国の学生が抱える平均ローン残高が400万円もあるのとは対照的だ。
つまりドイツにとって教育無償化とは、機会均等だけでなく、高度な人材育成のための成長戦略なのだ。その理念をちょうだいした「人づくり革命」で、日本はようやく重い腰を上げた。
二つ目はSociety5.0。「AIやビッグデータを産業に取り入れ、機械・人・モノをインターネットで横串を刺すようにつなぎ、付加価値を生み出す」という政策だ。
ドイツは2011年に、世界に先駆けてインダストリー4.0(第4次産業革命)を打ち出した。産業革命は第1次が機械化、2次が電力活用、3次がITによる生産自動化、第4次は「インターネットでつながる工場」である。
工場の設備や部品、製品をネットでつなぎ、ドイツ全体を一つの仮想工場に見立ててスピード感のある最適生産を実現しようという壮大な試みだ。車メーカーはじめほとんどの主要企業が参加している。
米国もこれを追って「先進的製造業」という旗印を打ち出したが、日本にはデジタル化する産業の将来構想は何もなかった。独米を見て16年にあわてて打ち出したのがSociety5.0。その概念も似ている。経産省内には「ドイツが言い出さなければ、日本は思いつきもしなかった」と自省の声がある。
有料会員の方はログインページに進み、朝日新聞デジタルのIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞デジタルの言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください