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年金の運用利回りで二極化するサラリーマン投資家

運用実績は老後受け取る給付に直結。給付額に大きな差が出る可能性も

深沢道広 経済・金融ジャーナリスト

 企業年金の世界で広がる運用利回りの差

 公的年金の積立金が初めて160兆円を超える中、企業に勤めるサラリーマンらが加入する企業年金の世界で、運用利回り(収益率)の差がかつてないほど広がりつつある。

 民間調査会社の調べによると、2017年9月末で運用利回りが5%を超えた人は前年比3.6倍に急増したという。世界的に堅調に推移している株式市場や、為替が円安に振れたことなどから、一部の人の運用利回りが上昇しているためだ。

 この結果、株式などを組み入れた投資信託で運用する人と、そうでない人との利回りは2~10倍以上に広がっている。運用実績が老後受け取る給付に直結するだけに、このままの運用状況が続けば、給付額に大きな差が出る可能性がある。

確定拠出年金とは

 ここでいう運用利回りの差とは、企業年金のうち、「確定拠出年金(DC)」と呼ばれる、01年10月から導入された新しいタイプの企業年金の世界だ。企業が運営責任を負う「企業型」と、個人が任意で加入する「個人型」がある。このうち、「個人型」は17年1月より公務員や専業主婦らにも対象者を拡大。「iDeCo=イデコ」と呼ばれ、20歳以上のほぼすべての人が加入できる仕組みに改められた。テレビCMでも取り上げられる場面が多くなっている。ただ、ここで取り上げるのは、「企業型」の話だ。

サラリーマンの約6人に1人が加入

社員教育に悩む全国の企業担当者=第6回日本DCフォーラム、2017年10月13日午後、佐藤祐司撮影
 
社員教育に悩む全国の企業担当者=第6回日本DCフォーラム、2017年10月13日午後、佐藤祐司撮影

 厚生労働省によると、企業型DCの加入者数は17年10月末で約641.1万人(速報値)、導入企業数は2万8652社、運用資産額は10.5兆円を突破している。

 民間サラリーマン(公務員を除く)は国内に約3599万人いるため、企業型DCは実に民間サラリーマンのうち約5.6人に1人が加入している巨大な企業年金制度だ。これまで企業型DCを導入したのは、日立製作所、トヨタ自動車、東芝、NTT、ホンダなど大企業が中心だが、中小企業でも導入が広がっている。

 わが国の年金制度は20歳以上のすべての人が原則加入する国民年金、職種によって加入する公的年金(サラリーマンなら厚生年金)、企業などが任意で運営する企業年金の3層から成る。このうち、DCは三階部分に当たる企業年金と説明される。

 これまでの企業年金は運用の結果、積み立て不足が発生すると、企業が掛け金を追加拠出して穴埋めする責任を負っていた。これに対して、DCは企業が個人ごとに設定する掛け金を拠出する責任までを負い、運用の結果責任は基本的には個人が負う仕組みで、個人の運用実績が老後受け取る年金給付額に直結するのだ。

 企業型DCは企業が労使合意を経て、これまでの企業年金制度を変更したり、新規導入してきたもので、基本的に個人の意思とは関係ない場合が多い。企業側は法令上求められる必要最小限の投資教育は実施するが、個人の理解度や関心は千差万別だ。

 このため、企業がDC導入後、個人の運用実績を決める資産配分は放置されがちで、個人への投資教育をどのように実施するかが企業関係者や行政の積年の課題だった。

利回りの公式データはないが……

 しかも、個人の運用実績が老後の給付に直結するにもかかわらず、これまで企業型DCの運用利回りについて公式統計はなかった。企業が契約する金融機関ごとに利回りの算出方法が異なっていたこともあり、厚労省も金融庁も把握できていなかったためだ。

 そこで、民間のサンプル調査を利用する。格付投資情報センター(R&I)の「年金情報」が09年から年2回(3月末と9月末)の運用状況をまとめている。このデータは企業と契約する大手金融機関4社(三井住友信託銀行、みずほ銀行、三菱UFJ信託銀行、野村証券)の加入者が対象。サンプル数は国内最大級で、17年9月末で約349万人と、DC全体に占める割合は約55%を占める。

 それによると、17年9月末は加入してからの運用利回りがプラスの人が約344万人、割合にすると全体の98.5%、利回りがマイナスの人は約5万人、同1.5%、平均利回りは3.39%という。9月末時点の日経平均株価は2万356円と同誌が調査を開始して以来、初めて2万円を超えた水準だった。

 参考までに、利回りがプラスの人が最も少なかったのは、リーマンショック直後の09年3月末で36.8%、一方利回りがマイナスの人が63.2%もいたのと比べると、ここ数年で利回りが急回復してきた経緯がある。平均利回りはマイナス6.15%で、当時の日経平均株価は足元の約3分の1である8109円だった。

 翻って直近は、世界中で北朝鮮のミサイル問題など地政学的リスクが意識されたものの、日本株についてはこれまで海外投資家からの買いが継続し、17年9月末で2万356円まで上昇。東京証券取引所の投資部門別売買動向(東京・名古屋2市場、1部、2部と新興企業向け市場の合計)などによると、海外投資家は9月第4週(9月25~29日)から現物株を11月第2週(11月13~17日)まで7週連続で買い越すなど上昇基調が続いていた。

 海外投資家は11月第3週(11月13~17日)以降いったん売り越しに転じたものの、年明け後も買い余力は衰えておらず、国内勢の買いも相俟って、一時2万4000円台を回復。足元では依然として2万3000円台で推移している。2万4000円台に乗せるのは1991年11月以来約26年ぶりの株価水準だ。

利回り1%未満が最多

 では個人の運用利回りの明暗を分けたのは何なのか――。

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