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危ない!トランプ氏の誘いに乗るな

TPPで圧倒的に立場が弱いのはアメリカ。日本は御用聞きをすべきではない

山下一仁 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

トランプ氏の真意

ダボス会議出席後、ホワイトハウスに到着したトランプ米大統領=1月26日、ワシントン、ランハム裕子撮影拡大ダボス会議出席後、ホワイトハウスに到着したトランプ米大統領=1月26日、ワシントン、ランハム裕子撮影

 アメリカのトランプ大統領は25日、CNBCテレビのインタビューで、昨年離脱した環太平洋連携協定(TPP)について、「もっと良い条件が得られるなら参加する」と述べ、再交渉で有利な条件が得られることを前提に、復帰を検討する意向を示したと報じられた。

 前後の発言から見て、これはいつのもツイッターでの思い付きではなく、事前に政権内で相談して用意したもののようだ。ただし、ダボス会議での公式の演説では、TPPに参加している国と二国間または多国間で相互の利益になるように交渉すると言っており、はっきりとTPPに復帰すると述べるのではなく、ぼかした表現になっている。

 いずれにせよ、大統領就任直後TPPはとても悪い協定だとして誇らしげに離脱を表明したときとは、態度を異にしている。TPP11が合意され、アメリカ農産物が日本市場から締め出されてしまうという心配が現実のものとなりつつあるからだ。

 アメリカの農家はこれまで共和党を支持してきた。TPP離脱によって不利益を受ける彼らが態度を変更すれば、今年11月の中間選挙で与党の共和党は連邦議会の多数を維持できなくなるのではないかというおそれが出てきた。改選される共和党議員の少ない上院は大丈夫だとしても、全員が改選される下院は相当危ない状態になる。中間選挙後、トランプ大統領はレイムダック(死に体)になるかもしれないのだ。

 他方で、自分を大統領に押し上げてくれた、貿易で職を奪われたと主張するラストベルト地帯の労働者の声を無視することもできない。このため、TPPは良くないが、改善されるのなら参加すると主張することになったのだろう。

アメリカで通商交渉権限を持っているのは誰か?

 これまでトランプ氏は、TPPはとても悪いと主張してきた。しかし、具体的に協定の何が悪いのかを示したことはない。ダボスでの演説も公正で互恵的な協定であるべきだと抽象論を言っているだけだ。

 アメリカの憲法上通商交渉の権限は連邦議会にある。現在は今年の6月30日まで議会は通商交渉の権限を連邦政府に授権している(その後は大統領が要請し議会が否認しなければ3年間延長可能)。つまり、今年の7月以降トランプ大統領に通商交渉権限があるのかどうか、明らかではない。

 通商交渉権限が行政府に授権されているときでも、協定の発効には議会の承認が必要なので、これまでも行政府は議会関係者と緊密に連絡を取りながら交渉してきた。

 民主党のオバマ政権が合意したTPP協定が議会の承認を得られない状況になったのは、共和党の幹部議員が反対したからである。上院のマッコウネル院内総務は、たばこ規制がISDS条項(投資家が投資先の国を国際仲裁裁判所に訴えられるという規定)の対象から外されたことに、TPP協定承認を担当する上院財政委員会のハッチ委員長は、医薬品業界の新薬のデータ保護期間がアメリカ法が定める12年ではなく8年となったことに、それぞれ不満を表明した。他方で、民主党の議員の中には、為替レートを自国通貨安にして輸出を増やしたり輸入を抑制したりすることを規制すべきだと言う主張があった。

 TPPを改善すると言う名目で、アメリカはこれらを主張するのかもしれないが、これらの論点はTPPの他の参加国からの反対が強く、妥協の結果合意のところに落ち着いたと言う経緯がある。アメリカが蒸し返したとしても、TPPの他の参加国は応じない。為替操作の論点はアメリカ財務長官さえも反対した。

 そもそも今年11月の中間選挙によって、連邦議会の構成が大きく変わってしまう可能性がある。今の議会の意見を忖度してアメリカ政府が交渉し、成果を得たとしても、それが中間選挙後の議会に承認される保証はない。 ・・・ログインして読む
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筆者

山下一仁

山下一仁(やました・かずひと) キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

1955年岡山県笠岡市生まれ。77年東京大学法学部卒業、農林省入省。82年ミシガン大学にて応用経済学修士、行政学修士。2005年東京大学農学博士。農林水産省ガット室長、欧州連合日本政府代表部参事官、農林水産省地域振興課長、農村振興局整備部長、農村振興局次長などを歴任。08年農林水産省退職。同年経済産業研究所上席研究員。10年キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。「フードセキュリティ」「農協の大罪」「農業ビッグバンの経済学」「企業の知恵が農業革新に挑む」「亡国農政の終焉」など著書多数。

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