性急な成果を求められ、非正規雇用が増えて、博士課程進学者が先細る
2018年02月16日
宇宙の始まりであるビッグバン。東京大学のカブリ数物連携宇宙研究機構は、その謎に挑戦する世界的な研究機関である。米カリフォルニア大学バークレイ校から招かれた機構長・村山斉教授の下には欧米やアジアの研究者が集結し、新たな発見が相次いでいる。
そんな村山氏の悩みは、毎年の予算獲得にあたって、官僚や政治家に基礎研究の意義をなかなか理解してもらえないことだという。
「宇宙の始まりや遠い未来の地球の運命を解明して、何か役に立つの?」と聞かれる。また寄付を頼んだ企業からは「寄付してあげたいが、株主が納得してくれない」と、多くは断られる。
この分野の研究者たちがデータ共有のためにインターネットを開発した、という歴史的な業績はあるが、宇宙の解明が産業や経済の利益につながるわけではない。知的好奇心だけでは、基礎研究の資金獲得は容易ではない。
同じ悩みは他の多くの理系分野も抱えている。
2016年ノーベル生理学・医学賞を受賞した大隅良典・東大特別栄誉教授は、「大学は安定財源である運営費交付金を毎年1%ずつ削減されて貧しくなっている。短期で効率のよい見返りを求める雰囲気が強くなり、長期間を要する基礎研究は大変厳しい状況にある」と危惧する。
そこで大隅氏は昨年9月、ノーベル賞の賞金1億円を元に一般財団法人・大隅基礎科学創成財団を設立。多くの研究者の賛同を得て、先見性や独創性に優れた基礎研究を助成する活動を独自に始めた。
同氏自身は、細胞のオートファジー(自食作用)について、大学や公的研究機関を異動しながら長年研究した成果が受賞につながった。しかし、いま若手研究者の多くは予算不足のために身分が不安定な「任期付き」(非正規雇用)になり、挑戦的な基礎研究には取り組みづらい。
「任期付き」とは、助教や講師を採用する際、任期を普通5年に限定することをいう。3年目で業績が評価され、4年目で次の職を探す。研究者を互いに競わせることが本来の目的だが、当事者は絶えず生活の不安を抱え、研究も細切れになりやすい。後で述べるが、近年、研究不正が増えているのも、この不安定さと無関係ではない。
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