2018年02月16日
だらだらと時間ばかり過ぎ、なかなか結論の出ない会議のことを、戦国の故事にならって「小田原評定」という。東芝が決算発表の延期を繰り返した昨年2月から4月にかけて、PwCあらた監査法人との間で何度も開いた会議や打ち合わせの数々がまさにそうだった。
いっそう事態を複雑にしたのは、本来ならば関係のない東芝の前任監査人がこの評定の場にひっぱり出されたことだった。国内最大手の新日本監査法人、それに新日本と国際業務で提携関係にある米大手会計事務所アーンスト・アンド・ヤング(EY)は、東芝とPwCあらたの攻防に巻き込まれていく。
東芝が昨年2月14日に四半期決算の発表を延期してから、はやくも半月が過ぎたころだった。東芝とPwCあらたとの打ち合わせが開かれた。その席上、PwCあらたから寝耳に水の情報がもたらされる。東芝子会社の米ウェスチングハウス(WH)の前任監査人だった米EYから「WHの会計処理に疑義が呈された」というのだ。東芝の内部資料にはこう出てくる。
「3月6日 あらた監査法人との打ち合わせ」という表題のついた欄には、PwCあらたの会計士のコメントとして以下の項目が並んでいる。
「・米EYが『当時の会計処理に問題があるかもしれない』との連絡を米PwCにしてきた」
「・米EYが懸念を表明しているため、米EYが当時の会計処理に問題ないことを確認するまで、米PwCはサインできず」
「・米国側がサインできないため、PwCあらたとしても(東芝の)四半期決算の報告書が出せない」
「当時の会計処理」とあるのは、2015年10月のWHによる米建設工事会社CB&Iストーン・アンド・ウェブスター(S&W)の買収をめぐる損失引当金の計上のことを指している。この買収劇の結果、東芝は6500億円の巨額損失を抱え込むことになった。東芝はいつの時点で損失を計上するべきだったのかが、やがて争点になる。
同じ3月6日、PwCあらたから東芝に対し、3月14日に控える2016年4~12月期決算の発表を再び延期することを検討するように要請が入った。「米EYの見解を待ってから発表してほしい」というものだった。WHの前任監査人の見解がなければ、現在の監査法人は決算に対する「お墨つき」は出せない、といっているのだ。とりあえず米EYと新日本の協力を得るため、東芝の役員はこのあと新日本の会計士に連絡を入れている。
3月10日、東京都港区の東芝本社に米PwCとPwCあらた、西村あさひ法律事務所、米大手法律事務所K&L Gates、それに東芝の監査委員を務める社外取締役たちが集まった。
関係5者による全体会議は約1カ月前の最初の決算延期の直前にも開かれている。米PwCからは「S&W買収をめぐりWHと東芝がいつ損失の発生を認識したのか、その有無を調査する必要がある」との意向が示される。そして、「現状どこに問題があるのかわかっていない以上は、その作業量は誰にもわからない」「さらなる調査には4週間はかかる」とも告げられた。
東芝の担当者は、内部資料の当日のコメント欄にこう記している。「米PwCが調査の延長に導く進め方は2月の5者会議と同じだが、PwCあらた側で話をまとめようという意識は全く感じられなかった」。
日本の監査法人ではなく、米国の会計事務所主導で進められる議論への不信感が東芝側には芽生えていた。出席者からは「作業量はわからないといいながら、質問を繰り返すと『4週間』という回答が出るなど、米PwCは思いつきで発言しているのではないか」という声もあがった。
ところが、米EYが疑義を呈したという前提が崩れる。同じ10日、東芝の役員あてに新日本からメールが届いた。「米EYが『過年度の修正が必要となる可能性がある事項を発見した』と米PwCやWHに連絡したというのは、全く事実ではありません。情報源はわかりませんが、どこかで事実誤認があります」。新日本も米EYも「当時の会計処理に対する判断は正しかった」という見解だった。
どうして情報が錯綜し、事実誤認が起きたのかはいまだにわかっていない。
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