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消費者を丸裸にするキャッシュレス社会

ビッグデータの活用とプライバシー保護の両立が不可欠だ

土堤内昭雄 公益社団法人 日本フィランソロピー協会シニアフェロー

広がるキャッシュレス社会

 最近、現金を使うことがめっきり減った。食料品や日用品はネットスーパーで購入し、クレジットカードで決済する。細かい最寄り品はコンビニで買い、電子マネーで支払う。買回り品や書籍はネット通販で注文し、カードで購入する。電車やバスなどの交通費、飲料の自販機、ファストフードの支払いは電子マネーだ。公共料金や定期的な購買は、銀行の口座振替を利用する。病院の診療費や自動車税の支払いもカードが使えるようになり、われわれは一層便利なキャッシュレス社会を迎えている。

 しかし、欧州や中国などを旅行すると、日本のキャッシュレス化が遅れていることを実感する。背景には日本の銀行の店舗網やATM(現金自動預け払い機)網の発達があり、偽札も少なく現金の信用力が高いことがあろう。国内のATMの設置台数は約11万台と非常に多く、コンビニ店舗にも設置されている。最近ではATMの維持コストの大きさからATMコーナーを縮小・整理する金融機関も出てきている。キャッシュレス化が進み、現金使用が少ない北欧諸国では、すでにATMの台数は大幅に減少しているという。

現金決済比率が高い日本

 「金融広報中央委員会」(事務局:日本銀行情報サービス局内)が公表した平成29年の『家計の金融行動に関する世論調査』(2017年11月10日)によると、二人以上の世帯の日常的な支払い手段は、千円以下の小口決済は現金が84.6%、5万円以上の高額決済はクレジットカードが58.1%と最も多い。日本の個人消費におけるキャッシュレス決済はクレジットカードが中心だが、コンビニなどの小口決済にあまり使われていないことが、日本でキャッシュレス化が大きく進まない理由のひとつではないだろうか。

 日本は国際的にみると、高額紙幣を中心とした現金流通高の対名目GDP比が高く、現金決済比率が高い現金大国だ。政府は2027年6月までに、キャッシュレス決済比率を4割程度に高めることを目標に掲げている。また、東京オリンピック・パラリンピックまでに訪日外国人4,000万人の実現を目指しており、主要な観光地を中心にカード決済端末機の設置費用補助を進めている。今後、キャッシュレス社会を実現するためのさらなる取り組みが求められる。

キャッシュレス社会のメリット

 キャッシュレス社会の到来は、消費者にとっては小銭を持つ必要がなく、レジの待ち時間も短くなり、日常生活が便利になる。事業者も決済に要する事務処理時間や手間が減り、人件費の節約や生産性の向上が見込める。キャッシュレス社会では、個人や企業などによる現金移動が減少し、社会の安全性も高まる。電子決済が進むことは、個人にとって便利なだけでなく、企業や行政機関の業務の効率性を高めるとともに、現金社会の資金管理コストや通貨発行コストの削減および徴税の公正化にも資するだろう。

 一方、キャッシュレス社会では個人の消費行動が詳細に把握できる。だれが、どこで、なにを、いくらで、どれだけ買ったかという個人情報が自動的に名寄せされる。消費に関するビッグデータを収集した企業は、AI(人工知能)を駆使して、GPSによる位置情報や気象情報等も加えて解析すれば、一人ひとりの消費パターンの予測も可能になる。その結果、有効なパーソナル・マーケティングやターゲット・マーケティングが行われ、商品やサービスの売り上げ向上につながるのだ。

 キャッシュレス化はビッグデータの収集を容易にし、消費者行動の予測分析による新たなビジネスを生み出す。ビッグデータの時代には、

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