仮想通貨業界浄化へ本気度見せる
2018年03月14日
仮想通貨取引所大手のコインチェック社(東京都渋谷区)から巨額の仮想通貨が外部流出した問題で、監督官庁の金融庁が3月8日、他の仮想通貨取引所にも一斉に行政処分に踏み切った。2月以降実施していた金融庁検査の結果、1~2週間で行政処分を出すのは極めて異例。
各社に対応可能な法令上可能な行政上の措置で、監督官庁としての「大ナタ」を振るった格好だ。これから検査に入る同業者にも立ち入り検査を通告済みで、行政処分がさらに広がる可能性がある。キーパーソンは、銀行や証券検査で知られる〝あの人〟が絡んでいた。
「おそらくコインチェックは氷山の一角だろう」――。筆者が1月下旬面談した金融庁幹部は憔悴(しょうすい)しきった様子でこう話していた。
大手と言われていたコインチェックがこのずさんな管理、中堅や新規参入業者はもっとひどいところがあっても何らおかしくないからだ。だからこそ、金融庁はあえて全件立ち入り検査に入り、ウミを出し切る覚悟で臨んでいるのだ。
これまでの金融庁であれば、事案の全貌、全体像が見えるまで、検査の結果、法令違反が見つかったとしてもすぐに行政処分は出さず、当面の間、様子見していたはずだ。しかし、それを待っていては、第二、第三のコインチェックが出て問題がさらに深刻化する可能性があることを恐れたのだ。当然監督官庁に対する批判が出るのも想定し、関心のある国会議員から予算委員会などでも質問を受けることも出てくるとみている。
2012年に年金運用会社AIJ投資顧問が約2000億円の顧客資産を運用の失敗で消失させていた事案で、金融庁は同じく同業の投資運用業者に対して一斉調査をしていたが、調査結果の概要を公表したのは数カ月後だった。検査の結果、法令違反が見つかっても行政処分は数カ月先と万全を期していた。あの時と明らかに金融庁の本気度とスピード感が違うのだ。それだけ、コインチェック問題に対する危機感があるからだ。
担当官の顔ぶれが当時と違うのもある。この問題のキーパーソンとは、総括審議官の佐々木清隆氏。2月16日の衆院財務金融委員会で政府参考人として答弁した人物だ。カラーシャツに紫のネクタイといった具合に霞が関の役人のイメージとはかけ離れているが、問題意識も並の役人ではない。
佐々木氏は1983年旧大蔵省に入省し、OECD(経済協力開発機構)やIMF(国際通貨基金)に出向する経験を持ち、国内では銀行検査や証券検査で頭角を現した。2005年の証券取引等監視委員会特別調査課長時代、ライブドアなどの不正会計事件を手掛けた。メガバンクや信託銀行の検査で手腕を発揮し、これまで不可侵だった大手監査法人の行政処分にも切り込んだ。仮想通貨問題に金融庁が迅速に対応しているように見えるも氏の判断が影響しているのは間違いがない。
佐々木氏は2月の前出の財金委で自民党の井林辰憲議員からの検査結果は何らかの形で公表するのかという質問に対してこう答弁している。「利用者保護の観点から、利用者への情報提供が重要と考えております」。また、「検査の結果を踏まえまして、どのような課題が把握されたか、これをどのように公表するかということについても検討してまいりたいというふうに考えております」と結んだ。
一見すると、形式的な役人言葉のように捉えられる。しかし、真意はこうだ。
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