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トランプ関税で損をするのはアメリカ人だ

アメリカの「自傷行為」は放っておけばいい

吉松崇 経済金融アナリスト

貿易戦争に簡単に勝てる?

ホワイトハウスで行われたスウェーデンの首相との共同会見でのトランプ米大統領=ワシントン、ランハム裕子撮影 拡大ホワイトハウスで行われたスウェーデンの首相との共同会見でのトランプ米大統領=ワシントン、ランハム裕子撮影

 トランプ米大統領は、3月8日、鉄鋼製品に25%、アルミ製品に10%の輸入関税を課す大統領令に署名した。関税は23日に発動される。ただし、北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉を現在進めているカナダとメキシコに対しては当面猶予して、交渉の進展を見て判断し、その他の同盟国に対しても交渉の余地はあるとしている。ディールの大好きなトランプ氏らしいやりかたである。

 3月1日に関税措置を発表した際には、トランプ氏はホワイトハウスに集まった鉄鋼業界・アルミ業界の企業幹部との会合で「国防のために鉄鋼・アルミ企業が必要だ」、「我々は貿易戦争に簡単に勝てる」と発言していた。

 実に愚かな話である。この人は、貿易の赤字・黒字を二国間の勝ち負けだと思っているが、本当のところは、アメリカのマクロ経済政策の結果として、貿易収支が赤字になっているというだけの話である。

 二国間で交渉して、トランプ氏が「アメリカに有利なディール」を獲得しても、アメリカの貿易赤字は減らない。極端な話、例えば、アメリカが日本からの自動車の輸入を禁止すれば、日米間の貿易赤字は解消するだろうが、おそらく欧州からの輸入に置き換わるだけで、アメリカの貿易赤字の総額は減らない。

 皮肉なことだが、マクロ経済政策である「トランプ減税」でアメリカの総需要は拡大すると見込まれるので、トランプ氏がどんな交渉をしようが、貿易赤字は今後さらに膨らむだろう。

関税でダメージを受けるのは米国自身だ

 だが、愚かな話はこれだけでは終わらない。この話の最も重要なポイントは、輸入関税で一番のダメージを受けるのは貿易相手国ではなく、米国自身であるというところにある。

 現在、米国は鉄鋼需要の30%とアルミ需要の90%を輸入に依存している。主な輸出国は、鉄鋼ではカナダ、EU、ブラジル、韓国、メキシコ、ロシア、トルコ、日本であり、アルミではカナダ、ロシア、UAE、中国である(以上は、2017年の米国の輸入に占めるシェア5%以上の国である)。

 この輸入に関税を課すと、鉄鋼とアルミの国内価格がその分高くなる。鉄鋼やアルミは典型的な中間財であり、あらゆる製造業で使われている。すぐに思い当たるのは、自動車産業、航空機産業、そして建設業である。中間財の価格の上昇は、これら川下の産業への打撃となり、コストの上昇が価格に転嫁されれば消費者への打撃となる。

 米国の鉄鋼・アルミの国内価格が上昇すると、当然需要が減少する。だが、鉄鋼・アルミ産業は典型的な装置産業だから、現在アメリカ向けに輸出している企業は、そう簡単には供給力を調整できない。

 米国で減った需要をカバーするために、市場の大きなEU向けの輸出が増えると考えられ、欧州で鉄鋼・アルミの価格が下落するだろう。これにより、EU内の自動車産業、航空機産業のような川下の産業のコストが低下して、ひいては消費者も恩恵を受ける。建設資材も値下がりする。

 そうすると、このトランプ関税の効果は、アメリカでは、鉄鋼・アルミ産業の関係者(株主・経営者・労働者)は恩恵を受けるが、それ以外の産業の関係者と消費者は損をする。反対に、アメリカ以外の国では、鉄鋼・アルミ産業の関係者は損をするが、それ以外の産業の関係者と消費者は恩恵を受ける。

 どちらの人口が多いかは言うまでもないだろう。総じて言えば、トランプ関税でダメージを受けるのはアメリカ人であり、アメリカ以外の国の国民が恩恵を受けることになる。 ・・・続きを読む
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筆者

吉松崇

吉松崇(よしまつ・たかし) 経済金融アナリスト

1951年生まれ。1974年東京大学教養学部卒業。1979年シカゴ大学経営大学院(MBA)修了。日本債券信用銀行(現あおぞら銀行)、リーマン・ブラザース等にて30年以上にわたり企業金融と資本市場業務に従事。10年間の在米勤務(ニューヨーク)を経験。2011年より、経済・金融の分野で執筆活動を行う。著書:『大格差社会アメリカの資本主義』(日経プレミアシリーズ、2015年)。共著:『アベノミクスは進化する』(中央経済社、2017年)。

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