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異分野への越境が生んだ独創的がん治療法

2人の日本人研究者が挑む「ナノマシン」と「がん光免疫療法」

木代泰之 経済・科学ジャーナリスト

ナノサイズの高分子粒子の中に薬剤を包み込み、体内に入れる

 日本人研究者が開発した2つの革新的ながん治療法が、実用化に向けた臨床試験に進んでいる。高分子化学を駆使した「ナノマシン」と、がん細胞に光を当てて物理的に破壊する「がん光免疫療法」である。ともに専門分野を超えた好奇心が、既存の概念を覆すアイデアを生み出した。

ナノマシンの仕組み図=ナノ医療イノベーションセンターのHPより拡大ナノマシンの仕組み図=ナノ医療イノベーションセンターのHPより

 「ナノマシン」は極小の高分子粒子の中に抗がん剤などの薬剤を包み込んだもの(図参照)。注射で体内に入れると、血流に乗って全身をめぐる。病院と同じように自動で検査や診断をし、患部で薬剤を放出して病気を治す。その働きから「体内病院」(In Body Hospital)とも呼ばれる。

ナノ医療イノベーションセンターの片岡一則センター長兼研究統括(東京大学名誉教授)拡大ナノ医療イノベーションセンターの片岡一則センター長兼研究統括(東京大学名誉教授)

 1960年代のSF映画「ミクロの決死圏」では、人間が細菌サイズに小さくなって体内に入り病気を治療したが、そのシーンを彷彿(ほうふつ)とさせる。

 主導するのは、川崎市産業振興財団のナノ医療イノベーションセンターの片岡一則センター長兼研究統括(東京大学名誉教授)=写真。元々は大学で合成化学を学んだ化学者である。

 ナノマシンは図のように、水に溶けやすい性質(親水性)と、溶けにくい性質(疎水性)の両方を持った高分子を水の中に入れて作る。

 高分子は親水性の部分を外側に、疎水性の部分を内側にして丸く凝縮するので、疎水性の部分にあらかじめ薬剤を付けておくと、薬剤を内包したナノマシンができる。

乳がんとすい臓がんの臨床試験はフェーズ3へ

 その適用が最も有望視され、臨床試験が行われているのが、がん治療である。

 ナノマシンの大きさはウイルスと同程度の直径約50ナノメートル(1ミリの2万分の1)ある。正常な組織では血管壁の穴が小さくて血管の外へ出られないが、がん組織は大量の栄養や酸素を必要とするので穴が100ナノメートルと大きく、ナノマシンは容易にがんの中に入っていける。

 がん組織は酸性になるので、ナノマシンはそれを検知すると自ら壊れ、抗がん剤を一気に放出するよう設計されている。

 臨床試験は5種類のがんを対象に行われており、中でも乳がんとすい臓がんは、安全性を見るフェーズ1、効果の有無を調べるフェーズ2を終え、今は最終のフェーズ3(他の治療法との比較)に入っている。

「越境する好奇心」が未知の異分野へ誘う

 ナノマシンは、従来のがんの外科手術や薬物治療、放射線治療とは全く異なるメカニズムで機能する。片岡氏は生体材料(バイオマテリアル)を研究するうちに、高分子粒子をがん治療に応用する発想を得た。 ・・・ログインして読む
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筆者

木代泰之

木代泰之(きしろ・やすゆき) 経済・科学ジャーナリスト

経済・科学ジャーナリスト。東京大学工学部航空学科卒。NECで技術者として勤務の後、朝日新聞社に入社。主に経済記者として財務省、経済産業省、電力・石油、証券業界などを取材。現在は多様な業種の企業人や研究者らと組織する「イノベーション実践研究会」座長として、技術革新、経営刷新、政策展開について研究提言活動を続けている。著書に「自民党税制調査会」、「500兆円の奢り」(共著)など。

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