世界標準では、リフレ派こそが「正統派」である
2018年04月04日
日銀総裁・副総裁の人事は、政府が国会に提出して承認を得る必要があるが、安倍首相にとって、現政権の経済政策にかかわる全ての人事の中で、最も重要な人事が日銀総裁・副総裁の人事である。なぜなら、安倍政権の経済政策、「アベノミクス」の核心が、第1の矢である「大胆な金融政策」であるからだ。
5年と少し前を思い起こして頂きたい。2012年12月の総選挙で、当時野党であった自民党は、デフレ脱却のための日銀による積極的金融緩和、そのための枠組みとしての「インフレ目標」の導入を主張し、選挙で圧勝して第二次安倍政権が成立した。金融政策が選挙の争点になったのは、これが初めてのことであった。
こういう文脈の中で、安倍首相が最初に行ったのが日銀総裁・副総裁人事だった。2013年4月に黒田東彦総裁、岩田規久男・中曾宏両副総裁の体制が成立し、ここから黒田日銀の「異次元金融緩和」が始まった。そして、円安・株高が生じ、失業率はこの5年間で4.2%から2.5%にまで改善し、就業者数も6,255万人(2013年2月)から6,578 万人(2018年2月)へと323万人増加した。
名目GDPも503兆円(2013年)から544兆円(2017年)まで上昇して、首相の表現を借りれば「もはやデフレではない」ところまでようやくたどり着いた。
この5年の間、安倍政権は、政権を獲得した2012年12月の総選挙を含め、5回の衆参両院の選挙すべてで圧勝した。「安倍1強」といわれるゆえんであるが、この政権の強さと安定性は経済の良好なパフォーマンスがもたらしたものであり、また、これが黒田日銀の「異次元金融緩和」によることも明らかである。
(総選挙の結果が経済のパフォーマンス、とりわけ雇用情勢でほとんど説明がつくことに関しては、拙稿「自民党の圧勝には明白な理由がある!」(2014年12月15日)を参照頂きたい。)
つまり、黒田日銀の「異次元金融緩和」こそが、安倍政権の命綱なのである。
したがって、今回の日銀総裁・副総裁人事にあたり、安倍首相にとって最も重要なことは、この人事が「現在の黒田日銀の金融政策スタンスに何の変化もないこと(つまり、積極的金融緩和を継続し、必要とあれば躊躇なく追加緩和を行うこと)」の明白な表明でなければならない、ということだ。
そう考えると、「異次元金融緩和」の顔である黒田総裁の再任に何の不思議もないし、また、岩田副総裁と共著書があり、金融政策に関してほとんど同じ見解を有する若田部教授と、「異次元金融緩和」の実務のトップであった雨宮理事を副総裁に指名することにも何の驚きもない。
つまりこれは、予想通りの極めて順当な人事であったと言えよう。
だが、この日銀総裁・副総裁人事に関し、主要な経済メディアの中にまことに不思議な論評がある。
日本経済新聞は、3月23日の『シンゾウとの距離 政策編 ④ 金融 2人の異端に傾倒』と題したコラムで、今回の人事に影響を及ぼしたのは首相の2人の経済ブレーン、本田悦朗・駐スイス大使と浜田宏一・内閣官房参与(イェール大学名誉教授)であり、「2人の経済ブレーンが日銀人事にまで影響を持ったのは異例」であるという。とりわけ、若田部教授に関しては「本田氏が推薦したが、財務省の推薦リストに入っておらず」、そのため「蚊帳の外に置かれた日銀は、(3月5日の副総裁候補の国会での所信聴取の前に、若田部氏と)事前のすり合わせを細部までできなかった」のだそうだ。
既に述べたように、安倍首相にとり、日銀総裁・副総裁人事は「アベノミクス」の根幹をなす最重要の人事である。したがって、その人事に関し、首相が最も信頼するブレーンの意見に耳を傾けることに何の不思議もない。そもそも、5年前の日銀総裁・副総裁人事にも、この2人の経済ブレーンの見解が深く影響しているのは周知の事実であり、それを、何を今更「異例」と書くのであろうか?
不思議なのは、
有料会員の方はログインページに進み、朝日新聞デジタルのIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞デジタルの言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください