森林保全から木材の大量生産への転換を狙う「森林経営管理法案」
2018年04月12日
今国会に提出されている「森林経営管理法案」。これが「林政の大転換」と呼ばれるほど大きな変革であることをご存じだろうか。一般市民のほとんど知らないところで、戦後日本の森林政策が大きく変わろうとしている。
この法案は、林野庁が昨年10月に打ち出した「新たな森林管理システム」に基づき提出されたものだ。その趣旨は「林業の成長産業化と森林資源の適切な管理」という言葉で説明されている。そして今年度の予算にも、法案に則した「林業成長産業化総合対策」を盛り込んでいる。
たしかに近年の森林管理の大きな問題の一つに、所有者が森林の経営に意欲を示さず放置が進んでいる点が上げられる。また転居や世代交代が進んで所有者が不明になったり、相続未登記のままだったり、さらに所有の境界線がわからなくなってきたこともある。そこで森林の所有権から森林管理権を分離して行政主導で整備を進められるようにしようというわけだ。その意図はわからないでもない。
しかしよく読むと驚くべき項目がいくつかある。その一つが、必ずしも所有者の同意を必要としない条項があることだ。市町村の勧告や知事の裁定によって森林所有者の同意なしで50年まで「経営管理」できるとしている。所有者が不明の場合はまだしも、仮に森林所有者が自治体の森林経営の方針に反対で、伐採や林道・作業道を入れるのを拒んだ場合も実行できる「伝家の宝刀」となるのだ。ここまで強引に行ってよいものだろうか。
だが、そうした公的権限の強化以上に気になるのは「新たな森林管理システム」に示される現今の林業に対する認識である。
たとえば「8割の森林所有者は森林の経営意欲がない」「意欲のない森林所有者のうち7割が主伐の意向すらない」「11齢級となって主伐期を迎えているのに行わない」といった問題点を列記している。ちなみに主伐とは森の木を全部伐ること。齢級とは樹木の年齢を5年刻みで数える用語で、11齢級は約55年生を指す。つまり人工林は50~60年で全部伐るのが森林経営の常識なのに、森林所有者の多くは従わない、それを経営意欲がないと断じているわけだ。だが、この前提に大きな違和感を覚えるのである。
そして森林所有者の多くが主伐を嫌うのは経営意欲がないからではなく、長年育ててきた自分の森がなくなってしまうのを嫌うからだ。もちろん現在の材価が安すぎて、伐っても利益がほとんど出ないことも大きい。それなのに「伐期が来たから主伐すべき」という発想は、所有者の気持ちを無視しているだけでなく、経済原則にも反している。しかも主伐を行えば、ようやく高まってきた森林の公益的機能を一気にゼロにもどすことを意味する。仮に再造林を順調に行えても、数十年は回復しないのだ。その間、所有者は自分の山が崩れないかと不安を抱えることになるだろう。
市町村が所有者から預かった森林を「意欲と能力のある業者」に委託するという点にも疑問がある。森林経営の意欲と能力は「素材生産の生産量または生産性の増加」を基準とするとあるが、
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