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金融庁の優等生、スルガ銀行の転落

シェアハウス不正融資疑惑で特別検査

深沢道広 経済・金融ジャーナリスト

拡大金融庁の森信親長官(当時は検査局長)の発言を聞く麻生太郎金融相=2013年11月13日、衆院財務金融委員会

 金融庁が揺れている。仮想通貨交換業者のコインチェック社による巨額資産流失問題に続いて、森信親・金融庁長官が「地銀のお手本」と絶賛するスルガ銀行を巡り、女性向けシェアハウス「かぼちゃの馬車」の建設資金に関する不正融資疑惑が浮上。3年にわたり金融庁に君臨してきた大物長官・森氏への批判がくすぶり始めた。

源泉徴収票を偽造? 組織ぐるみか

 「かぼちゃの馬車」の仕組みはこうだ。(1)会社員や医師らが銀行ローンを組んで女性専用シェアハウスを建設する(2)不動産運営会社・スマートデイズ社が一括で借り上げ、家賃を長期保証するサブリース契約を会社員らと締結(3)会社員らはスマートデイズから家賃収入を得て銀行に返済していく。そしてこの銀行ローンの大半を実行していたのが、スルガ銀行だった。

 ところが、スマートデイズ社からの家賃保証が今年1月に停止し、会社員らが銀行ローンの返済に窮している問題が表面化した。借入先との協議で金利の引き下げや返済の1年間猶予が認められたケースもあるが、債務弁済の解決のめどはたっていない。

 一部の被害者らは「スマートデイズ被害者の会」を結成し、3月には集団訴訟に乗り出した。ただ、現時点で首謀者ははっきりせず、加害者と被害者、共犯関係があいまいで、刑事事件に発展するかは不透明だ。捜査当局は事態を水面下で注視している。 

拡大スマートデイズが展開した女性専用シェアハウス「かぼちゃの馬車」の建物の看板(画像を一部加工しています)

 融資を受けたのは、商社マンなどの会社員や医師ら700人超で、30~50歳が多い。融資額は1人当たり1~4億円にのぼり、総額1000億円を超える公算だ。被害規模が大きく、社会問題化しつつある。

 金融庁は当初、スルガ銀行に対し、銀行法に基づく報告徴収命令を出して融資実態を把握しようとした。特定の支店に融資実行が集中しており、同行の役員レベルが関与している疑いが浮上。ローン審査の過程で、審査に通りやすくするため審査対象の会社員らの源泉徴収票の偽造や預金残高の水増しなどで不正に融資を実行していた可能性も出てきた。

 このため、緊急の立ち入り検査をして実態を把握する必要があると判断。法令違反が見つかれば行政処分に踏み切る構えだ。一部支店の関与なのか、組織ぐるみだったのかが今後の焦点となる。

入居率は5割未満、実態は自転車操業

 スマートデイズ社は「頭金なしで投資可能で、30年間家賃収入を保証する」と幅広く勧誘。2012年8月の創業から5年足らずで管理物件は未完成のものを含め1000件以上と急成長を遂げた。売上高は13年7月期に4億4500万円だったが、17年3月期には316億9600万円(16年に決算期変更)まで急拡大した。

 スルガ銀行は現時点でスマートデイズ社による虚偽の書類で銀行ローンを実行させられ、総額数百億円の回収のめどが立たなくなった。この点ではスマートデイズ社に利用された「被害者」の可能性がある一方、銀行の支店内で説明会を開くなどスマートデイズ社と共犯関係にあった可能性も否定できない。

拡大金融庁

 金融庁検査の結果いかんで、故意はなくても審査で不正を見抜けなかった過失が認定される可能性もある。関係者によると、同行横浜東口支店の顧客として使途自由の「フリーローン」を重複して借りているケースが多いという。この結果、同支店は同行内でも何度も営業成績を表彰される超優良支店だった。

 スマートデイズ社の体の良い説明とは裏腹に、「かぼちゃの馬車」の実態は実勢価格より高値で物件を販売し、家賃の設定も不適切で、入居率は5割を満たなかったことが明らかになっている。建物が完成して入居者がいない物件も多数ある。もっとも、30年間同額の賃料を保証するものではなく、一定期間ごとに賃料を見直す契約だったため、融資を受けた側の落ち度もある。

 スルガ銀行からのローンの一部がスマートデイズ社に還流し、家賃収入の支払いに充てられていたとみられ、別の顧客を常に探し続ける自転車操業に近い実態だったようだ。銀行ローンが停止されれば、家賃保証ができなくなるのは必然だった。

拡大スルガ銀行本店=静岡県沼津市

 スルガ銀行は静岡県沼津市内に本店を置く地方銀行で、神奈川県や東京都にも支店を置く。預金残高は4兆760億円、貸出金は3兆2860億円。銀行には珍しい同族経営で、企業向け融資を極力抑制し、個人ローンに特化するなど、他の銀行と異なるビジネスモデルをトップダウンで確立した。鶴の一声で経営上の重要な方針が決まることもあり、他の地銀は「カリスマ経営者の迅速なトップダウンといえば聞こえは良いが、実態はノーガバナンスだろう」と指摘する。

 日銀のマイナス金利政策の導入で、大半の地銀が国債の運用益が細る中、収益性の高いカードローンや不動産融資など手数料収入などで好業績を維持していた。17年度中間決算は本業のもうけを示す単体のコア業務純益は331億円。横浜銀行、千葉銀行に次いで全64行中3位だった。

 経費を除いた中間純利益は204億円。資本規模では中堅だが、収益力は地銀トップクラスだ。同地域の有力地銀静岡銀行はコア業務純益207億円、中間純利益223億円で引けをとらない。静岡銀行は預金残高9兆4049億円、貸出金は8兆1389億円と全国的にみても有力地銀の1つ。貸出金もスルガ銀行の倍以上だけに、スルガ銀行の経営効率が高いことがわかる。

 貸出金利回りは平均1.15%だが、スルガ銀行は3.6%と突出している。スルガ銀行は他の地銀よりリスクを取り、高い金利でローンを実行し、回収しているということだ。スルガ銀行の利用者は「返済が1日でも遅れると、電話がかかってきて消費者金融のようだった」という。

「森長官はA級戦犯」の声も

 地方経済は人口減と消費低迷で停滞しており、金融庁は森長官主導で地銀再編を推進してきた。森長官は問題発覚まで一貫して「個々の地銀が創意工夫して新たなビジネスモデルをつくり上げることが重要だ」と強調してきた。

 その森長官自身が新たなビジネスモデルづくりに取り組む「地銀のお手本」として、事あるごとに名前を挙げて評価していたのがスルガ銀行だった。「スルガ銀行のビジネスモデルを見習えと絶賛していた」(関東地方の有力地銀)という。

 金融庁関係者によると、スルガ銀行は長官自らが地銀の優等生としてお墨付きを与えていたため、今回の特別検査は「筋が悪い」という。金融庁としてはあくまで特定の一部支店の問題として収め、組織ぐるみの問題にはしたくないのが本音であろう。

拡大霞が関人事に絶大な影響力を持つ菅義偉官房長官

 森氏は安倍官邸の信頼が厚く、15年から3年にわたり長官に君臨している大物官僚だ。金融庁長官を3期務めたのは同庁発足以来、五味廣文(現SBIホールディングス社外取締役)と畑中龍太郎氏(前コロンビア大使)と森氏の3人だけだ。

 森友問題を巡る公文書改ざんを受けて、政府は財務省の抜本再建策として森長官を財務事務次官に起用する案も政府内の一部で検討されていたが、現時点では立ち消えになった模様だ。メガバンク幹部は「あれだけスルガ銀行を褒めたたえた森長官はA級戦犯だ」と冷ややかだ。

 今夏の森長官勇退はほぼ確実視されており、後任長官には三井秀範検査局長(1983年旧大蔵省入省)や氷見野良三金融国際審議官(83年旧大蔵省入省)が本命視されている。

スマートデイズ社は破産へ

 スマートデイズ社は4月9日、東京地裁に民事再生法の適用を申請。東京商工リサーチによると、今年3月末時点の負債総額は60億3523万円。

 スルガ銀行の審査が17年秋までに厳格化された結果、スマートデイズ社は販売が大幅に落ち込み、一気に資金繰りが悪化した。10月には会社員らに対してサブリース契約で保証するとしていた賃料の減額を通知。今年1月には同月以降の賃料支払いの目途が立たないことを明らかにした。

拡大金融制度のあり方の検討を金融審議会に諮問する麻生太郎金融相(中央)と森信親金融庁長官(左端)=2017年11月16日、金融庁

 スルガ銀行が審査を厳格化したのは、金融庁や日銀の不動産市場への警戒感が大きい。金融庁は16年9月の金融リポートで「今後の注視が必要」と指摘。日銀は17年4月の資金システムリポートで「これまで以上に入口審査や中間管理の綿密な実施が重要」と不動産投資市場の過熱感に警戒感を強めていた。

 スルガ銀行も実際、金融庁の検査・監督(モニタリング)方針が厳格化されると見込み、これまでの柔軟な融資姿勢を転換したとみられる。実際、日銀調査統計局の貸出先別貸出金で日本全体を見ても、国内銀行の設備資金総貸出のうち、個人向けアパートローン貸出は17年に激減した。

拡大

 東京地裁は18日、同社からの民事再生法の申請を棄却。保全管理命令を発令し、保全管理人を選任した。今後、破産手続きに入る見通し。このため、民事訴訟でスマートデイズ社から勝訴判決を得たとしても、回収は事実上難しくなった。予想通りの結末だ。

 責任の所在は別として、今後は資金力があり事業を継続する関係先が訴えられる可能性が高い。スルガ銀行は被告の大本命だ。 ・・・ログインして読む
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筆者

深沢道広

深沢道広(ふかさわ・みちひろ) 経済・金融ジャーナリスト

1978年生まれ。慶応大学商学部卒業後、編集者として勤務。05年青学大院経営学研究科会計学専攻博士前期課程修了。格付投資情報センター(R&I)入社。R&I年金情報、日本経済新聞の記者として勤務。12年のAIJ投資顧問による2000億円の巨額年金詐欺事件に係る一連の報道に関与し、日経新聞社長賞を受賞。24億円の巨額横領、贈収賄事件など年金ガバナンス、資産運用の諸問題を明らかに。17年7月退社。

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